神話の人物と農民の踊り

作品について

『神話の人物と農民の踊り』は、フランドルの巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスが1635年に板に油彩で描いた作品です。この絵画は、ピーテル・ブリューゲル（父）の農村生活を描いた作品群から影響を受け、同時代の作品である『村祭り』とも関連性があると考えられています。ルーベンスの死後、フェリペ4世が彼の邸宅から本作を買い上げ、マドリード王宮に飾られた後、現在はプラド美術館に所蔵されています。

描かれている情景

絵画の中心には、オークの木に腰掛けフルートを吹く男と、鈴の音に合わせて踊る人々が描かれています。この踊りの場面は、古代ギリシアの歴史と神話に登場する踊りや、イタリア・ルネサンス期の著作『ヒュプネロトマキア・ポリフィリ』の挿絵に見られる踊りを彷彿とさせます。また、テオクリトスの『アイディル』に影響を受けた田園的な詩や演劇の雰囲気も感じられます。ルーベンスは、田舎を豊穣さ、ロマンス、そして性的ファンタジーの理想郷として描いています。

詳細な描写

絵画は、茶色、緑色、青色の絵具によって生き生きと描かれています。中景には、建築家アンドレーア・パッラーディオの影響を受けたと思われるアーチとまぐさ石のある農家が見えます。この建築様式は、ルーベンスが好んだ16世紀のイタリア建築を示唆しており、彼のアントウェルペンの邸宅の設計にもその影響が見られます。

踊る人々は、手足を動かし、身体を捻ることで、古代ギリシア文学に記述されるような情熱的な感情を表現しています。また、互いに鏡像のように配置された2匹の犬が、円環状の動きを強調しています。風になびく衣服もまた、動きの感覚に貢献しています。

前景では、1人の女性が胸をはだけた別の女性と、ツタの冠をつけた髭面の男性が密着している様子に戸惑っているように見えます。男性の淫らな態度は、女性を怖気づかせています。右側では、別のカップルがキスをしようとしています。トラの毛皮を纏い、葉の冠を被った酒の神ディオニュソスは、その様子を満足そうに振り返っています。

ディオニュソスと他の登場人物

若いディオニュソスは、彼を特定するアトリビュートであるトラの毛皮を身に着けています。この毛皮は、彼の東方での功績を象徴しています。ノンノスの叙事詩『ディオニュソス譚』には、ディオニュソスがインドを征服した際に踊った様子が描かれており、ルーベンスは本作でその場面を彷彿とさせる踊りを描いたのかもしれません。古代ギリシア文学における踊りの場面の最も有名な例は、ホメロスが『イーリアス』で記述した、ヘパイストスがアキレウスのために作った盾に描かれた場面です。

フルートを吹く人物は牧神パーンの役割を担っていると考えられますが、動物の属性は持ち合わせていません。他の踊り手たちは、ディオニュソスの連れであるサテュロスを思わせます。また、前景の2人の青い服の女性の間にいる髭面の男性は、同じくディオニュソスの連れであるシレノスを思わせます。

女性たちの描写

絵画に登場する女性たちは、高級な衣服やサンダルを身に着けている者もいれば、裸足で農民のように見える者もいます。しかし、ルーベンスの時代の上流階級や田舎の女性のような服装ではありません。露出した首、胸、肩、そして帽子を被っていない髪や裸足は、異なる時代や場所を連想させます。これらの女性たちは、ルーベンスが生涯にわたって描いた、時代を超越した寓意的、神話的な女性像を想起させます。また、彼女たちは、ティツィアーノが描いたバッカンテ（バッカスの信者）やニュンペーを彷彿とさせ、踊りは両者が好んだものでした。

この作品は、ルーベンスの卓越した芸術的才能と深い知識を示すとともに、古代ギリシアの神話や文学、そしてルネサンス美術への深い理解が反映された傑作と言えるでしょう。

もう一度検索