神霊矢口渡

『神霊矢口渡』の概要

『神霊矢口渡』（しんれいやぐちのわたし）は、江戸時代の人形浄瑠璃および歌舞伎の演目の一つであり、五段構成で展開されています。この作品は、福内鬼外（平賀源内）、吉田冠子、玉泉堂、吉田二一の合作で、明和7年（1770年）1月に江戸外記座で初演されました。物語は南北朝時代の新田義興の悲劇を中心に展開されます。

あらすじの概要

初段

物語は後醍醐天皇の崩御後、南北朝に分かれた皇統の時代に舞台を設定しています。北朝の後光厳天皇が京都に在位し、一方南朝の後村上天皇は吉野で公家たちに従われていました。南朝側は、足利尊氏の拠点である鎌倉を攻める計画を立て、新田義興がその大将に任命されます。しかし、義興は状況を考え出陣への不安を抱くものの、強い非難に屈して出陣し、家宝である「水破兵破の矢」を手に戦に赴くことになります。

九条揚屋の段

義興には弟の小太郎義岑おり、彼は遊郭で遊び呆けていました。ここで彼と敵対する鎌倉武士が協議しており、密かな策略を巡らせています。義興の動静を伺う彼らは、弟義岑を騙して南朝を悩ませ分断を図る計画を立てました。

八幡山の段

義興は、鎌倉への出陣を前にして戦勝の神への祈願を込め灯籠を捧げます。しかし、突如として風が吹き、灯籠の光は消えてしまいます。この現象を弟の義岑は戦への警告と解釈するが、義興は命をかけて戦に挑む決意を固め、義岑に矢を託し自分の名を守るよう訴えて旅立ちます。

武蔵野原合戦の段

義興の軍は鎌倉に到着し、激しい戦闘が始まります。義興は勇猛に敵を攻め立てますが、内部には裏切り企みがあり、意図しない犠牲が出てしまいます。義興は意に反して自害に追い込まれ、義岑は兄の無念を背負うこととなります。

由良兵庫館の段

一方、義興の家臣たちは徳寿丸を守るために計画を立て、彼の身代わりを使うことを決定します。義興の死を受け、家臣たちは次々に運命を翻弄され、悲劇的な結末を迎えます。最終的に、義興の霊が現れ、復讐を果たす展開が待っています。

新田大明神の段

物語の最後では、義興を祀る社が建設され、彼の霊が一般人を祟る様子が描かれます。そして義岑たちは、信義を重んじ展示される神の業が平和をもたらすことを望みます。

解説

この作品は、平賀源内によるものであり、主に『太平記』に基づいています。戦国時代の激動を背景に描かれる新田義興の悲劇は、歌舞伎や人形浄瑠璃として長く演じられ、多くの観客に感動を与え続けています。特に、義興の霊の復讐劇や、登場人物たちの運命が描かれる部分は観る者を引き込み、彼の名を後世に残す重要な要素となっているのです。

また、平賀源内は歴史的な事件を元にした物語を巧みに描く技量を持ち、その作品は今日でも名作として評価されています。

さらに、各登場人物に秘められた感情や策略が見事に描かれており、名作とされています。

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