新田義興

新田義興：波乱の生涯と悲劇的な最期

新田義興は、南北朝時代を駆け抜けた武将、新田義貞の次男として誕生しました。幼名は徳寿丸。生母は上野国一宮抜鉾神社の神主・天野時宣の娘であったと伝えられています。

兄である義顕が金ヶ崎城の戦いで自害したのに対し、義興は側室の子であったためか、家中で重要な役割を担うことはありませんでした。弟の義宗の方が、むしろ高い地位にありました。

父や兄が北陸で戦っている間、義興は上野国新田荘に留まっていました。しかし、建武4年（1337年）、奥州の北畠顕家が西上すると、義興はこれに呼応して上野国で挙兵。顕家の軍に加わり、杉本城の戦い、青野原の戦いと勝利を重ね、後醍醐天皇に謁見を果たします。天皇より「義貞が家を興すべき人」と評され、その場で元服を許されました。

その後、顕家の死後は弟の顕信と共に京都を目指しますが、高師直に敗れ退却。暦応元年（1338年）、義良・宗良親王、北畠親房らと共に東国再建のため下向するも、暴風雨で船団が分散し、武蔵国石濱に漂着後、消息不明となります。

暦応4年（1341年）頃には、常陸合戦での活動が見られます。小山氏を南朝方に引き入れようと画策するも、北畠親房の権限を侵害したとして非難を受けます。

観応の擾乱では、北条時行らと共に鎌倉奪還を目指して挙兵。正平一統が破綻すると、正平7年（1352年）、弟の義宗、従兄弟の脇屋義治と共に宗良親王を奉じて挙兵（武蔵野合戦）。鎌倉を一時占拠しますが、足利軍の反撃を受け、敗走します。

同時期には、長楽寺に対して狼藉禁止の文書を発給するなど、足利尊氏、室町幕府に対抗する動きも見られます。水野致秋宛ての文書の花押も、長楽寺宛ての文書と類似しており、義興の発給文書と推測されています。

尊氏の死後、1358年（正平13年）、義興はついに挙兵、鎌倉を目指しました。しかし、足利基氏、畠山国清は竹沢右京亮、江戸遠江守に迎撃を命じます。竹沢は義興を謀殺しようとしますが失敗、江戸遠江守、その甥と共に義興を多摩川の矢口の渡しで謀殺しました。享年28歳。

義興とその家臣13名は殺害され、その中には渋川井伊氏の井伊弾正左衛門直秀、伊予畠山城主の由良兵庫助由里らの名前が挙げられています。

江戸遠江守らは足利基氏に功を認められ恩賞を得ますが、江戸某が義興の怨霊に祟られ狂死したため、住民は義興を新田大明神として祀ることになります。人形浄瑠璃『神霊矢口渡』は、この事件を題材としています。東急多摩川線の武蔵新田駅は、新田神社（新田大明神を祀る神社）に由来しています。

明治42年（1909年）、義興は従三位を追贈されました。新田義興の生涯は、数々の戦乱、陰謀、そして悲劇的な最期という、激動の時代を象徴する物語となっています。彼の名は、新田大明神として、今も人々の記憶に刻まれています。

参考文献

峰岸純夫　『新田義貞』〈『人物叢書』〉　吉川弘文館、2005年
山本隆志　『新田義貞：関東を落すことは子細なし』〈『ミネルヴァ日本評伝選』〉　ミネルヴァ書房、2005年
埼玉県立歴史資料館編　『中世武蔵人物列伝』　さきたま出版会、2006年
久保田順一　『新田三兄弟と南朝：義顕・義興・義宗の戦い』　『中世武士選書』〉戎光祥出版、2015年

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