福島孝徳

福島孝徳：脳神経外科のパイオニア

福島孝徳（ふくしまたかのり）は、1942年 10月15日に生まれ、2024年 3月19日に逝去した、日本の脳神経外科医です。彼は、脳腫瘍に対する「鍵穴手術」という革新的な手術法を考案し、世界中で多くの患者を救いました。その卓越した技術と献身的な姿勢から、「神の手を持つ男」や「ゴッドハンド」と称され、医療界に多大な影響を与えました。

生い立ちと医学への道

福島孝徳は、明治神宮の宮司を務めた福島信義の次男として生まれました。幼少期から叔父である東京大学病院の内科医に憧れ、医学の道に進むことを志しました。都立戸山高等学校を経て東京大学医学部に入学し、研修医時代には世界で初めて内視鏡を使った脳の病気の診断を行い、その才能を開花させました。その後、西ドイツへの留学を経て、脳外科の限界を痛感し、独自の道を探求するようになります。

鍵穴手術の確立と海外での活躍

1978年に帰国後、三井記念病院脳神経外科部長に就任した福島は、従来の大きく頭部を切開する手術ではなく、数センチメートルの小さな穴から顕微鏡を使って脳腫瘍を切除する「鍵穴手術（キーホール・オペレーション）」の確立に着手しました。この手術法は、患者への負担を大幅に軽減し、手術後の回復を早める画期的なものでした。

1985年に鍵穴手術を確立しましたが、当時の日本の医学界では臨床実績が重視されず、論文の数や人脈が評価される状況に疑問を感じ、48歳で南カリフォルニア大学医療センターに脳神経外科教授として渡米しました。アメリカでは、臨床実績が評価される土壌で、鍵穴手術を用いて多くの難手術を成功させ、「神の手」と称されるようになりました。その後、デューク大学脳神経外科教授に就任し、世界各地で難易度の高い脳腫瘍手術や診察を行いました。

後進育成と医療環境の向上への貢献

福島孝徳は、自身の技術を後世に伝えるため、後進育成にも尽力しました。自費で全国の脳外科医を集めたセミナーを開催し、設備水準の低い病院への医療機器購入を援助するなど、医療環境の向上にも貢献しました。アメリカだけでなく、日本やヨーロッパなど、世界中の病院を訪れ、脳腫瘍だけでなく、脳動脈瘤や三叉神経痛などの手術を行い、これまでに20,000人以上の命を救いました。

また、クリッピング手術の権威である上山博康とは、若い頃から互いに意識し合うライバル関係にありましたが、現在は互いに認め合い、共同でセミナーを開催し若い医師の教育を行っています。

日本での活動と拠点

2006年には東京クリニックを日本での拠点の一つとし、2007年には千葉県に塩田病院附属福島孝徳記念クリニックを開院しました。2009年には福島孝徳記念病院に改称し、年間手術件数は500件を超え、良性脳腫瘍については日本で最多となりました。

2012年に運営方針をめぐり医療法人との間で相違があり、塩田病院附属福島孝徳記念病院の運営から離脱しましたが、その後も森山記念病院東京脳神経センター病院を拠点とし、各地の病院で活動を続けました。

その他の活動と人物像

福島孝徳は、若い頃からドラムを演奏しており、多趣味な一面を持っていました。取材や講演会では一人称を「福島先生」とし、移動中以外はほとんど睡眠をとらず、「人の2倍働き3倍努力する」をモットーとしていました。また、英語をはじめとする複数の言語を操るマルチリンガルであり、「流暢でなくてもよいから、少なくとも5カ国語でコミュニケーションを取れるべき」と考えていました。

ハーバード大学教授の荻野周史は、研修中に福島孝徳に出会い、多大な影響を受けたと述べています。また、2007年には自身の生い立ちが「神の手を持つ男」として漫画化されました。

福島孝徳の著書とメディア出演

福島孝徳は、自身の経験や知識をまとめた著書を多数出版しており、その中には一般向けの健康に関する書籍も含まれています。また、テレビ番組にも多数出演し、その活動や考え方を広く発信しました。

年表

以下に福島孝徳の主な年表をまとめます。

1942年：誕生
1961年：東京都立戸山高等学校卒業
1968年：東京大学医学部卒業
1978年：三井記念病院脳神経外科部長就任
1980年：頭蓋底の鍵穴手術を確立
1991年：南カリフォルニア大学医療センター脳神経外科教授就任
1998年：カロライナ頭蓋底手術センター所長就任
2006年：東京大手町東京クリニックの運営に参画
2007年：塩田病院附属福島孝徳記念クリニック開院
2009年：塩田病院附属福島孝徳記念病院に改称
2012年：塩田病院附属福島孝徳記念病院の運営から離脱
2016年：森山記念病院から東京脳神経センター病院へ「福島孝徳脳神経センター」を移転
2022年：脳神経外科　福島孝徳記念クリニックを神奈川県相模原市に開院
2024年：死去

まとめ

福島孝徳は、脳神経外科医として卓越した技術と知識を持ち、多くの患者を救いました。また、後進育成や医療環境の向上にも貢献し、医療界に多大な影響を与えました。彼の業績は、今後も長く語り継がれるでしょう。

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