福永嫮生

福永嫮生（ふくなが こせい）

福永嫮生（旧姓：愛新覚羅）は、1940年3月18日、愛新覚羅溥儀の弟である溥傑の次女として、東京で生まれました。父は清朝最後の皇帝・溥儀の弟、母は日本の侯爵家出身の嵯峨浩という、複雑な血筋を受け継いでいます。

波乱の幼少期

出生後まもなく、嫮生は父のいる満州（現在の中国東北部）へ渡ります。しかし、1945年の日本の敗戦により、満州国は崩壊。嫮生は母とともに、国共内戦の中を1年4ヶ月も流浪するという過酷な体験をします。その間、極寒の地で6000kmもの距離を移動し、共産党の捕虜として過ごしました。

この流浪の中で、幼い嫮生はアヘン中毒で錯乱状態の婉容皇后や、それを世話する母の姿を目撃します。また、通化事件では目の前で乳母が負傷する光景を目にするなど、壮絶な体験をしました。凍傷や赤痢にも苦しみ、心身ともに疲弊した状態で日本へ帰国することになります。

帰国後、母の実家で生活を始めますが、幼少期のトラウマから、いつでも逃げられるように服と靴を風呂敷に包んで寝る習慣がなかなか抜けませんでした。学習院の受験面接では、自分の住んでいた場所を「監獄」と答えたというエピソードも残っています。この発言は、彼女が体験した過酷な環境を物語っています。

日本での生活と中国との関わり

父・溥傑は戦後、ソ連や中国で収容生活を送っていましたが、姉の慧生が周恩来に手紙を送ったことで、父との文通が許されることになりました。1960年、学習院女子短期大学を卒業後、1961年に父と16年ぶりに再会するために中国へ渡ります。しかし、中国での生活よりも日本での生活を望み、日本に帰化します。その後、再び中国へ渡り、1年ほど父母と共に過ごしましたが、最終的には日本での生活を選びました。

1968年、福永健治と結婚し、5人の子供を授かります。現在は、自身の体験や父母から学んだことを基に、日中友好や戦争体験に関する講演活動を行っています。母の著書『流転の王妃』の後日譚となる『流転の王妃 愛新覚羅溥傑・浩 愛の書簡』を出版し、両親の遺品を関西学院大学に寄贈するなど、歴史を伝える活動にも積極的に取り組んでいます。兵庫県西宮市在住。

証言者としての活動

嫮生は、激動の時代を生きた証言者として、貴重な歴史を語り継いでいます。満州国崩壊時の混乱、中国大陸での流浪、そしてその後の家族の再会と別れ。これらの体験は、彼女自身の人生を大きく形作りました。講演活動を通じて、過去の歴史を振り返り、平和の尊さを訴えかけています。

また、日中友好にも力を入れており、両国の歴史を正しく理解し、互いに尊重し合うことの大切さを説いています。彼女の活動は、単なる歴史の証言にとどまらず、未来への希望を繋ぐものでもあります。

主な著書・編著

『愛新覚羅溥傑・浩書画集』（中央公論事業出版、2014年）
『流転の王妃 愛新覚羅溥傑・浩 愛の書簡』

参考文献

愛新覚羅浩『流転の王妃の昭和史』（主婦と生活社、1984年）
本岡典子『流転の子―最後の皇女・愛新覚羅嫮生』（中央公論新社、2011年）
* 牧久『転生 満州国皇帝愛新覚羅溥儀と天皇家の昭和』(2022年、小学館)


福永嫮生の人生は、激動の時代を生き抜いた個人の物語であると同時に、日中両国の歴史と文化を繋ぐ貴重な架け橋ともなっています。

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