福祉国家論

福祉国家の概要

福祉国家とは、国民の生活安定を図るために、社会保障制度を整備することを目的とした国家のことを指します。国家の機能は安全保障や治安維持だけにとどまらず、国民の福祉を増進させることが重要な目標となります。広義には、財政政策や雇用政策などの要素も含まれます。政治的には民主主義を基盤にし、経済的には混合経済体制を採用しているのが一般的です。

「福祉国家」という用語は1928年、スウェーデンの社会大臣グスタフ・メッレルが初めて選挙パンフレットで使用し、その後、英語圏ではウィリアム・テンプルが1941年に言及しました。特に第二次世界大戦中は、イギリスが連合国を福祉国家、枢軸国を戦争国家としてみなしました。

福祉国家論の発展

福祉国家論は、国家がどのように福祉を形成し、発展させ、変化させるのかを探求する学問分野です。1970年代以降のオイルショックによる経済危機を受けて、それぞれの国が示した対応の違いから、福祉国家には多様性が存在することが認識され、論じられるようになりました。特にイエスタ・エスピン＝アンデルセンが提唱した福祉レジーム論では、社会保障政策の特徴をさまざまな政治的および経済的要因に基づいて評価します。

福祉国家の歴史と分類

イギリスの社会学者リチャード・ティトマスは、福祉国家の形態を三つに分類しました。残余的モデルは、家族や市場が機能しない時にのみ国家が福祉を保障するものです。産業的業績達成モデルは、経済成長に伴って社会福祉が充実することを前提としています。そして、制度的再配分モデルは、さまざまな領域にわたって福祉の責任を広げ、福祉国家を基盤にした社会の厚生向上を図るものです。これに基づき、アメリカは残余的モデル、ドイツやフランスは産業的業績達成モデル、北欧諸国は制度的再配分モデルに位置づけられます。

福祉国家思想の基盤は18世紀のイギリスやドイツで形成され、ジョン・スチュアート・ミルやトーマス・ヒル・グリーンの自由主義思想がその流れを引き継ぎました。さらに、マーシャルは近代社会における市民権の成立が福祉国家の発展に不可欠だと論じました。

ベヴァリッジ報告書と社会保障

1941年に発表されたベヴァリッジ報告書では、社会保障制度の整備を通じて対処すべき「5つの悪」（窮乏、疾病、無知、不潔、怠惰）が示され、最低限度の生活を保証することが国家の使命とされました。

現代の福祉国家

20世紀に入り、福祉国家は拡大し、国民の所得保障や社会サービスの提供が進みました。特に第二次世界大戦後の経済成長期に、社会保障制度が充実し、福祉政策はさまざまな社会的ニーズに応えられる体制に発展しました。しかし、1970年代のオイルショックを背景に、福祉国家は危機に直面することになります。税収の減少や経済のグローバル化など、さまざまな要因がその原因とされています。

日本における福祉国家

日本の福祉国家には、保守主義的な要素や自由主義的な側面が混在しています。近年、経済成長の停滞とともに、福祉政策の見直しが求められるようになり、生活保護の基準や社会保障制度の見直しが進められています。社会の変化とともに、どのように福祉を提供していくかは重要な課題です。

このように、福祉国家は、歴史的な変遷やさまざまな理論、政策の影響を受けながら発展してきました。国ごとの特色や方向性が異なることから、福祉政策は今後も変化を続けていくことでしょう。

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