私擬憲法

私擬憲法とは

私擬憲法（しぎけんぽう）とは、明治時代、大日本帝国[[憲法]]が制定される以前に、民間によって起草された憲法草案のことを指します。これらの私擬憲法は、政府が公式に作成したものではなく、民間の有志や団体が、それぞれの理想とする国家のあり方を追求し、憲法の形にまとめたものです。

私擬憲法誕生の背景

明治初期、日本は欧米列強に追いつき、対等な関係を築くために、近代国家としての体制を整える必要に迫られていました。その中で、国民の間には政治参加や自由を求める声が高まり、自由民権運動が活発化しました。このような社会情勢の中で、国民自らが憲法を検討し、理想の国家像を具体化しようとする動きが生まれ、私擬憲法が数多く作成されることとなりました。

主な私擬憲法

現存が確認されている私擬憲法は60以上にも上ります。最も古いものとしては、明治3年（1870年）に佐賀藩士の江藤胤雄が起草した『国法会議案、附国法私議』が挙げられます。その後も、青木周蔵の『大日本政規』（明治5年）、宇加地新八の『建言議院創立之議』（明治6年）などが続きました。明治12年（1879年）には、共存同衆や嚶鳴社といった団体が私擬憲法の起草を始め、特に嚶鳴社が作成した「嚶鳴社憲法草案」は、その後の私擬憲法作成に大きな影響を与えました。

私擬憲法の内容

私擬憲法の内容は、作成者や団体によって大きく異なりました。穏健なものでは、人民主権や議院内閣制を主張するものが多かった一方、過激なものでは、抵抗権や革命権を認め、国民投票で皇帝を廃止する権利を規定するものも存在しました。特に、「東洋大日本国国憲按」は、その過激さで注目を集めました。

板垣退助は、私擬憲法の作成意図について、自著『我國憲政ノ由來』の中で、「憲法制定の必要性を国民に啓蒙し、国政改革の議論を促進するため」と述べています。これは、私擬憲法が単なる個人の理想にとどまらず、社会変革のための重要なツールとして捉えられていたことを示しています。

私擬憲法が辿った道

明治14年（1881年）には、国会期成同盟が憲法草案の提出を決議するなど、私擬憲法を土台に国会開設に向けた動きが加速しました。しかし、明治20年（1887年）に公布された保安条例により、私擬憲法の検討や作成は禁止されてしまいました。そのため、私擬憲法の多くは、政府によって正式な憲法制定の議論に取り入れられることはなく、大日本帝国[[憲法]]に直接的な影響を与えることはありませんでした。

私擬憲法の意義

私擬憲法は、その多くが大日本帝国[[憲法]]には反映されませんでしたが、民間の自由な発想や多様な政治思想を表現する場となりました。また、国民の政治意識を高め、憲法制定の必要性を広く社会に訴える役割を果たしました。これらの私擬憲法は、後の日本における民主主義運動や憲法改正の議論に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

主な私擬憲法

国法会議案、附国法私議（江藤胤雄）
大日本政規（青木周蔵）
建言議院創立之議（宇加地新八）
嚶鳴社憲法草案
東洋大日本国国憲按

参考文献

板垣退助「我国憲政ノ由来」『国家学会創立満三十年記念 明治憲政経済史論』国家学会、1919年4月、89-263頁。
小早川欣吾『明治法制叢考』京都印書館、1945年12月。
『憲政史編纂会収集文書目録』国立国会図書館〈憲政資料室所蔵目録 第1〉、1960年11月。

関連項目

大日本帝国[[憲法]]
自由民権運動
五日市憲法
東洋大日本国国憲按

外部リンク

私擬憲法 - コトバンク
憲政史編纂会収集文書 | 憲政資料室の所蔵資料 | 国立国会図書館

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