私部

私部（きさいちべ）とは

私部（きさいちべ、きさきべ、きさいべ、きさべ）は、古代日本の律令制度下において、大王（天皇）の后妃のために設置された部（べ）を指します。

概要

私部の初出は、『日本書紀』敏達天皇6年（577年）の条に見られ、日祠部（ひのまつりべ）と共に設置されたと記録されています。「きさいちべ」という読みは古く、「きさきチべ」のイ音便化であり、「きさき」は皇后を意味します。「チ」は所有格の「の」にあたると思われ、「皇后の部」と解釈できます。

古代において、皇后や皇族の生活費は、彼らの名代として設定された民からの収入によって賄われていました。例えば、仁徳天皇の皇后である磐之媛命には「葛城部」、允恭天皇の后妃である忍坂大中姫には「忍坂部」、衣通郎姫には「藤原部」、雄略天皇の皇后である草香幡梭姫皇女には「太草香部」がそれぞれ設置されました。

6世紀後半になると、官司制度が整備され、皇后・妃の地位が確立します。これに伴い、「私部」が改めて設置されることになりました。私部の管理には、各地の私部首（おびと）・直（あたい）・造（みやつこ）が従事し、彼らの管轄地や部民に由来する地名が現在も残っています（大阪府交野市私市、鳥取県八頭町の私都川など）。

また、後鳥羽上皇の配流伝説で知られる三次市吉舎町（きさちょう）は、「私部」に由来する地名であり、上皇自らが良い文字を選んだとされています。吉舎町周辺には、後鳥羽上皇に関連する史跡や地名（王貫峠、皇渡、仮屋谷、皇宇根など）が数多く残されています。

私部に関連する地名

大阪府交野市私市（きさいち）
鳥取県八頭町私都川（きさいちがわ）
埼玉県騎西町（きさいまち、現在は加須市の一部）：武蔵七党の私市党に由来
京都府福知山市、綾部市にも地名が存在
広島県三次市吉舎町（きさちょう）：後鳥羽上皇ゆかりの地

参考文献

永原慶二監修『岩波日本史辞典』岩波書店、1999年
『日本書紀』(四)「岩波文庫」、1999年

関連項目

子代
部民制
壬生部
* 承久の乱

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