壬生部

壬生部（みぶべ）とは

壬生部とは、古代日本の律令制以前に、天皇の皇子や皇女のために設置された部（べ）の一つです。乳部（にゅうべ）とも記され、皇族の養育を経済的に支える役割を担っていました。名代・子代（なしろ・こしろ）の一種であり、特定の皇族の生活費や養育費を負担する目的がありました。

壬生部の成立と役割

当初、有力な豪族が私的に所有する部民は、それぞれの氏の名を冠して「額田部（ぬかたべ）」や「白髪部（しらかべ）」のように呼ばれていました。しかし、后妃の生活を支える私部が設立されると同時に、皇位継承者の地位も確立し、皇族の養育を専門とする壬生部が設けられるようになったと考えられています。

『日本書紀』によれば、推古天皇15年（607年）に、神祇を重んじる詔が出された年に壬生部が設置されたとされています。壬生部は、皇子・皇女全般を対象とするだけでなく、大兄（おおえ）や皇太子といった皇位継承者のために置かれたという説もあります。また、貴人の産児に湯を使わせる役職である湯坐（ゆえ）との関連性も指摘されています。

壬生部は、その役割を終えると多くは消滅しましたが、中には皇子の名を冠した品部（しなべ）として存続したものもありました。例えば、聖徳太子の薨去後も上宮家が壬生部を保持し、蘇我入鹿が父の蝦夷とともに墓を造る際に、上宮家の壬生部の民を使役したことが『日本書紀』に記録されています。この行為は、上宮大娘姫王（かみつみや の おおいらつめのみこ）から厳しく非難されました。

壬生部の歴史的記録

天武[[天皇]]が崩御した朱鳥元年（686年）には、大海蒭蒲（おおしあま の あらかま）が、天皇の幼少時代を偲んで壬生部について誄（しのびごと）を述べたという記録も残っており、壬生部と皇族の間には単なる経済的な関係だけでなく、個別的な主従関係や深い繋がりがあったことが窺えます。

まとめ

壬生部は、皇族の養育を支えた重要な組織であり、古代日本の社会構造や皇室のあり方を理解する上で欠かせない存在です。その成立背景や役割、消滅の過程を考察することで、古代社会の複雑な構造や皇室の変遷をより深く理解することができます。

参考文献

高柳光寿・竹内理三編『角川第二版日本史辞典』（角川書店、1966年）
永原慶二監修『岩波日本史辞典』（岩波書店、1999年）
佐伯有清編『日本古代氏族事典【新装版】』（雄山閣、2015年）
『日本書紀』（四）・（五）（岩波文庫、1995年）
宇治谷孟訳『日本書紀』全現代語訳(下)（講談社学術文庫、1988年）

関連項目

壬生家
* 壬生氏

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