秘儀荘

秘儀荘（Villa dei Misteri）とは

秘儀荘は、イタリアのポンペイ遺跡にある古代ローマ時代の別荘です。西暦79年のヴェスヴィオ火山噴火で埋没しましたが、1909年に発見され、その壁画の美しさから「秘儀荘」と呼ばれるようになりました。ユネスコ世界遺産の一部であり、古代ローマの生活を知る上で貴重な存在です。

立地と歴史

ポンペイは、ナポリ湾を見下ろす場所に位置し、その景観の良さから富裕層の別荘地として発展しました。秘儀荘は、市街の北西、ヘルクラネウム門の近くに建てられ、美しい眺望を楽しめる場所にあります。

秘儀荘の建設は紀元前2世紀頃と考えられ、その後、増改築を繰り返して現在の姿になったとされています。当初は別荘として使われ、その後、農場やワイン製造の拠点としても利用されました。62年の地震で被害を受けましたが、修復されています。所有者については不明な点が多いものの、イスタキディウス氏族の解放奴隷や初代皇帝アウグストゥスの妻リウィア・ドルシッラと関連があった可能性が指摘されています。

発見と発掘

秘儀荘は、土地所有者であるアウレリオ・イテムによって発見されました。発掘調査の結果、美しい壁画が残された大規模な別荘であることが判明し、発見者の名にちなんで「イテム荘」とも呼ばれていました。その後、イタリア王国が買い上げ、国有化されました。

1924年にはアマデオ・マイウリが発掘調査の総監督に就任し、大規模な調査が行われました。特に秘儀の間の壁画は注目を集め、秘儀荘という名前がつけられました。

壁画の損傷と修復

発掘後、秘儀荘の壁画は、雨風や太陽光によって損傷が進みました。そのため、2013年から2015年にかけて、専門家チームによる修復プロジェクトが行われました。しかし、過去の誤った修復方法や振動、施設の自重などにより、現在も倒壊の危険性が指摘されています。

平面構造

秘儀荘は、正面入り口のベンチから始まり、中庭や作業場、使用人の部屋などがあります。エントランスからは、ペリスタイル、沐浴場、厨房、そしてナポリ湾を見渡せるポルチコやトリクリニウムへと繋がっています。特に有名なのは、秘儀の間と呼ばれる部屋で、フレスコ画が描かれています。

秘儀の間

秘儀の間の壁画は、ディオニューソスの秘儀を描いたもので、入信の儀式が描かれているとされています。部屋の用途は研究者の間で意見が分かれていますが、豪華な装飾から特別な機会に使われたと考えられています。他の部屋には、古代エジプト美術の影響を受けたミニアチュールや、「プリアポスへの供犠」と呼ばれる壁画もあります。

壁画の詳細

秘儀荘の壁画は、紀元前70年から紀元前60年頃に制作されたとされ、ポンペイの壁画の第二様式を代表する作例です。第2様式は、壁面全体を使った「メガログラフィア」と呼ばれる様式で、古代ギリシア美術の影響を受けています。

秘儀の間の壁画は、10のシーンで構成され、ディオニューソスの信者が秘儀を体験する様子が描かれています。赤を基調とした背景に、29人の人物が描かれており、マイアンドロス文様や植物文様などの装飾も施されています。壁画の赤色は「ポンペイアンレッド」と呼ばれ、火山灰に埋もれた際に起こった化学変化によって現在の色になったと考えられています。

壁画の各シーン

- 第1シーン: 裸の男児が巻物を読み上げ、ヴェールを被った女性がそれを聞いています。女司祭が座っており、給仕の女性がいます。男児はディオニューソスである可能性も指摘されています。
- 第2シーン: 女司祭が儀式の準備をしています。バスケットの中身は様々解釈があります。
- 第3, 4シーン: シーレーノスが竪琴を弾き、男女が腰掛けています。慌てた様子の女性は、秘儀の恐ろしさを暗示していると解釈できます。
- 第5, 6, 7シーン: 秘儀の核心部分です。壺を差し出すシーレーノス、ディオニューソスとアリアドネー、そして鞭を振り上げる女性が描かれています。鏡に映った仮面が恐ろしい啓示を象徴しています。
- 第8シーン: 泣き崩れる女性と寄り添う女性、シンバルを持つ女性とテュルソスを持つ女性が描かれています。
- 第9シーン: 髪を梳かす女性と鏡を掲げるクピドが描かれています。儀式が完了したことを示唆しています。
- 第10シーン: 着飾った女性がディオニューソスと向かい合い、秘儀の間全体を見つめています。

プリアポスへの供犠

秘儀の間の北側にある部屋には、「プリアポスへの供犠」と呼ばれる壁画があります。洞窟の入り口に供物を捧げる様子が描かれており、ヘレニズム美術の影響が見られます。

評価

秘儀荘は、ポンペイ遺跡の中でも重要な建造物であり、特にフレスコ画は、古代ローマの美術を代表する作品とされています。多くの観光客が訪れる人気スポットであり、原田マハなどの作家もその魅力を語っています。一方で、日常的に描かれた作品であり、芸術性はないとの批判もあります。

大塚国際美術館には、秘儀の間の壁画が原寸大で複製展示されています。

結論

秘儀荘は、その美しい壁画と歴史的な価値から、ポンペイ遺跡の中でも特別な場所です。その発見と発掘を通じて、古代ローマの生活や文化を知ることができる貴重な遺産であり、今後も修復と保全を通じて、その価値が守られていくことが期待されています。

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