秘密を侵す罪

秘密を侵す罪

秘密を侵す罪とは、日本の刑法において、個人の秘密を侵害する行為を総称するものです。具体的には、他人の秘密をのぞき見たり、暴露したりする行為が該当し、個人的な法益を保護することを目的としています。

該当する犯罪

秘密を侵す罪には、以下のものが含まれます。

信書開封罪（刑法133条）：封緘された信書を正当な理由なく開封する罪
秘密漏示罪（刑法134条）：医師、弁護士、宗教家などが、業務上知り得た秘密を正当な理由なく漏洩する罪

これらの罪は、いずれも親告罪であり、被害者の告訴がなければ起訴することができません（刑法135条）。信書開封罪の場合、告訴権者は発信者および受信者とされています（大判大正11年3月24日刑集15巻307頁）。

信書開封罪について

客体

本罪の対象となるのは、封緘された信書です。信書とは、特定の人物から特定の人物に宛てられた「意思を伝達する文書」を指しますが、文書に限らず、図表、図面、写真、原稿なども含まれます。ここでいう特定の人物には、法人や法人格を有さない団体も含まれます。ただし、国や公共団体宛の信書は、個人的な秘密の保持が必要な場合を除き、対象外となります。

行為

本罪の行為は、封緘された信書を開封することです。開封とは、封を破棄し、信書の内容を認識可能な状態にすることを意味します。透かし見など、封を破棄せずに内容を知る行為は、開封には該当しません。信書開封罪は、抽象的危険犯に分類されます。

違法性阻却事由

「正当な理由」がある場合、違法性が阻却されます。正当な理由としては、法令で認められている場合、権利者が開封に同意している場合、親権の行使などが挙げられます（ただし、反対説もあります）。

親告罪

信書開封罪は親告罪です。判例では、発信者は常に告訴権者であり、到達後は受信者も含まれるとされています。ただし学説では、発信時より受信者も告訴権者とするものが多数です。

秘密漏示罪について

刑法134条1項には「歯科医師」は明記されていませんが、一般的に歯科医師にも適用されると解釈されています。刑事訴訟法105条および149条には「歯科医師」も明記されています。日本歯科医師会では刑法134条1項にも「歯科医師」を加えるよう要望しています。

秘密漏示罪は身分犯であり、犯罪の主体は限定列挙と解釈されています。本条に列挙されていなくとも、その他の医療従事者は保健師助産師看護師法など職種毎の法、また、公務員等については国家公務員法や地方公務員法などの特別法において同様に秘密を漏らす行為が処罰の対象となることがあります。

秘密の内容については、主観説と客観説の対立があります。

「正当な理由」の具体例としては、感染症予防法に基づく医師の届出などが挙げられます。また、児童虐待防止法第6条では、児童虐待に係る通告義務を妨げるものではない（虐待通告は本罪を構成しない）ことが明記され、罪から免責されています。

参考文献

前田雅英　『刑法各論講義-第3版』　東京大学出版会、1999年。

関連項目

黙秘権
守秘義務
取材源秘匿
* 個人情報保護法

もう一度検索