穴山信友

穴山信友の生涯と領国支配

穴山信友は、戦国時代の武将であり、甲斐武田氏の家臣として活躍しました。穴山氏は甲斐国南部の河内地方を拠点とする国人でした。戦国時代の甲斐国は、武田氏の家中で内紛が起こり、有力な国衆や外部勢力との関係が複雑に絡み合い、混乱した状況にありました。

武田宗家では、当主である武田信縄の死後、嫡男である信虎が家督を継ぎますが、信虎の叔父である油川信恵との間で争いが再発します。穴山氏は、当初は当主である穴山信懸が今川氏に味方して信縄と敵対していましたが、信虎の時代には和睦し、武田宗家の外戚として良好な関係を築いたと考えられています。

しかし、穴山家中には武田氏と敵対する今川氏に味方しようとする勢力も存在し、永正10年（1513年）には信懸が実子によって暗殺されるという事件が起こります。信友は永正3年頃に生まれたとされています。父である穴山信風は、信懸の死後に家督を継ぎますが、享禄4年（1531年）に亡くなっています。信風の命日と同日には、武田信虎が今井氏らの連合軍を破った河原部合戦が起こっており、この時期には穴山氏が反武田勢力であった可能性も指摘されています。

その後、信虎は甲斐国を統一し、信友は信懸の死後に家督を継ぎ、穴山氏は武田氏に従属します。武田氏と今川氏の対立が激化する中、両家は和睦し、同盟関係を結びます。信友は、今川氏との婚姻同盟の仲介役を務め、武田氏との関係を強化しました。また、信虎追放後、武田晴信（信玄）が信濃侵攻を開始すると、信友もこれに参加し、各地で活躍しました。

『甲陽軍鑑』では、信友は平沢合戦、海野平合戦、碓氷峠合戦、川中島の戦い、塩尻峠の戦いなどで活躍したとされています。しかし、これらの戦いにおいて信友が実際にどのような役割を果たしたかは、明確にはわかっていません。信友期の穴山氏の軍役に関する記録は少なく、その活動は、次の世代である信君の時代になってから顕著になります。

また、信友は、河内領の支配を強化しました。穴山氏が入部する以前には、南部氏がこの地を支配していましたが、信友の時代には、河内領の中心的拠点を南部から下山館に移転し、城下町を整備しました。信友は、武田氏に従属した後も今川氏との外交ルートを維持し、両家の関係を円滑にする役割を果たしました。また、信友は、今川氏から駿河山西稲葉荘を与えられており、これは、武田氏と今川氏の婚姻の仲介を行ったことへの恩賞であるとも考えられています。

信友は、武田氏が今川氏、後北条氏との同盟を結ぶ際にも、重要な役割を果たしました。天文21年（1552年）には、今川義元の娘と武田義信の婚姻を仲介し、この婚姻を成功させました。

信友の文書記録は永禄元年（1558年）が最後であり、その後は子の信君の文書が見られることから、この頃に隠居したと考えられています。隠居後は「幡龍斎」と名乗ったようです。信友は、隠居後も今川氏との外交に関与し、桶狭間の戦いで今川義元が討ち死にした後、今川氏真と武田氏との同盟を継続することを確認しました。信友は、永禄3年（1560年）に55歳で亡くなりました。

墓所は南部町の円蔵院にあり、円蔵院には信友の肖像画も所蔵されています。この肖像画は、信友の七回忌、かつ信友の夫人の亡くなった年に作られたもので、美濃国岩村の大圓寺住職である希庵玄密による賛があります。また、身延町下山の南松院には、信友の夫人の肖像画が所蔵されており、この肖像画と信友の肖像画には共通点が多く、同じ工房で制作されたものと考えられています。

穴山信友期の領域支配と下山館

信友の時代には、河内領の支配に関する文書が残されており、これらの文書から、穴山氏がこの地をどのように支配していたかをうかがい知ることができます。信友は、福士郷の佐野将監に官途状を与え、地域の土豪を掌握しました。また、棟別諸役の免許も行っています。

戦国時代の甲斐国では、金山の経営が盛んであり、武田氏も黒川金山などの金山を管理していました。信友の領地である河内領でも、黒桂金山や保金山などの金山が存在し、信友はこれらの金山を管理し、金や木材を産出しました。

信友は、武田氏から一定の自立的な権力を持った戦国領主であると評価される一方で、領域支配に関する文書が武田宗家の支配秩序から逸脱していない点も指摘されています。

人物

信友は、武田氏の中で文化人としても知られていました。和歌や連歌に親しみ、天文13年には冷泉為和を招いて歌会を開催しました。しかし、信友は酒好きであり、そのために外交交渉が不調に終わったり、歌会で泥酔して冷泉為和に不快感を与えたという記録もあります。

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