立原翠軒

立原翠軒の生涯と業績

立原翠軒（たちはら すいけん、1744年生まれ、1823年没）は、江戸時代中期から後期にかけて活躍した水戸藩の士であり、優れた学者でもありました。彼は水戸藩主の徳川宗翰及び治保に仕え、その治世において数多くの貢献をしました。彼の本姓は平氏で、常陸平氏大掾氏の一門に属する立原氏の出身です。父は藩の彰考館管庫に仕官していた立原蘭渓です。

教育と初期の活動

翠軒は、延享元年に水戸城下の竹隈で生まれました。幼少期には谷田部東壑に師事し、1760年には古文辞学派の田中江南の門に入ることで更に学問を深めました。江南の後、江戸に転住し、彰考館の書写場に携わることとなりました。彼はその後も大内熊耳から文章を、細井平洲からは唐音を、松平楽山からは書を学び、幅広い知識を養いました。

1766年には水戸史館に転じ、事務に関わるようになります。天明6年（1786年）には彰考館の総裁に昇進し、『大日本史』の編纂に力を注ぎました。この大作の編纂は、彼にとって生涯の大きな目標となり、寛政11年（1799年）には『大日本史』の紀伝浄写本80巻を光圀の廟に献じております。

学問と藩政への貢献

立原翠軒は彰考館の蔵書を整理し、修史事業を軌道に乗せることで重要な役割を果たしました。その間、古い書物や器物の修復と製本を行い、後の『江水往復書案』や『史館雑事記』の原本が整理されました。彼の努力は多くの学者たちに知られるようになり、水戸学の発展に大きく寄与しました。

また、藩主の治保の藩政にも参加し、天下の三大患について老中に警告を上書したほか、門人を松前に派遣して実情を調査させるなど、政策形成にも関与しました。

逸話と人柄

立原翠軒には、数多くのエピソードが残されています。彼の弟子である小宮山楓軒は、翠軒の生き様を称賛し、その伝記を記しました。翠軒はかつて寺門倧太郎に連れられて妓楼に行かされそうになった際、巧みに逃げ帰ったエピソードが語られています。この出来事からも、彼の機転や誠実さが伺えます。

藩主治保との関係も興味深く、治保は翠軒を侍講に任じた際、彼に直諫を促す発言をしたとされています。さらに、家老の養子である山野辺図書に対しては、「君自身、罪のあるとは知らぬというのが罪」だといった厳しい言葉を投げかけ、正義を重んじる姿勢が感じられます。

最晩年と遺産

享和3年（1803年）、翠軒は高橋坦室の意見に従い致仕を命じられました。後任の弟子とともに『垂統大記』の編纂を進めましたが、文政6年にその完成を見ずに亡くなりました。享年80であり、多くの詩や著作が残されています。

彼は晩年も書画や篆刻に優れ、詩人や建築家などの子孫を残しました。なお、明治40年（1907年）には従四位を追贈されています。立原翠軒の業績は後代の学問に多大な影響を与え、多くの人々にその名を知られる存在となりました。

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