大内熊耳

大内熊耳：江戸中期を生きた儒学者・詩文家の生涯

大内熊耳（おおうち ゆうじ）は、元禄10年（1697年）に陸奥国三春藩（現在の福島県三春町）に生まれました。彼は江戸時代中期の儒学者、そして詩文家として名を残しています。特に、荻生徂徠門下の「七才子」の一人として知られ、その学識と才能を発揮しました。

生い立ちと学問の道

大内家は代々、陸奥国田村郡山根村（現在の福島県田村市常葉町山根）で庄屋を務めていました。しかし、熊耳が11歳の時、父の弥五右衛門が亡くなったため、熊耳村（現在の三春町熊耳）に帰農することになります。その後、三春城下の寺院に住み込み、学問に励みました。

正徳3年（1713年）、熊耳は平野金華を頼って江戸へ出ました。そこで秋元子帥に師事し、荻生徂徠の門下で活動しました。しかし、正式には徂徠の門下生とはなっていません。7、8年後には京都へ上り、徂徠と対立していた伊藤東涯に会いますが、ここでも入門はしませんでした。彼は中国の文化や思想に強い関心を抱き、長崎へ渡り『李滄溟集』を愛読しました。

徂徠学への回帰と晩年

徂徠の死後、熊耳は江戸に戻り、徂徠学に立ち帰りました。服部南郭を兄のように慕い、浅草に私塾を開いて成功を収めます。また、水戸藩への仕官を志望し、彰考館総裁の安積澹泊に「対封建策」「対礼楽策」を含む論文を提出しましたが、採用には至りませんでした。しかし、門弟の立原翠軒や毛利扶揺らを通じて、『大日本史』の「志」部の編纂を促すなど、学問の世界で影響力を発揮しました。

元文3年（1738年）には、家老の松本尚炯の推薦により三河岡崎藩の江戸藩邸に出仕し、宝暦12年（1762年）の肥前唐津藩への転封後も引き続き仕え、明和5年（1768年）に職を辞しました。その後、飯田藩の堀親長からの招聘を断り、外臣として諮問に応じるなど、隠居後も学問への情熱を持ち続けました。

安永5年（1776年）4月28日、熊耳は江戸の唐津藩邸で病のため亡くなりました。下谷広徳寺の末寺である泰寿院に葬られ、法名は敬心斎宮義山紹勇居士。泰寿院は明治初年に桂徳院に合併され、大正12年（1923年）の関東大震災で墓碑が倒壊し、寺と共に練馬村へ移されました。

大内家の系譜

大内家は百済王琳聖太子を祖とし、余姓を称していました。先祖の柏木田監物義久は、安達郡小浜城主の大内義綱の弟で、柏木田（現在の福島県二本松市長折）に住み、熊耳村に隠居しました。その後、伊達政宗や田村清顕に招かれて根柄村（現在の本宮市稲沢）に移り、根柄氏を称しました。義久の長男弾正は家を継がず、田村郡南成田村（現在の三春町南成田）、さらに熊耳村へ移りました。次男の源助は奥州仕置の際に伊達氏に仕え、延宝年間には山根村の庄屋となりました。

家族構成

実父：道耆府君 – 享保12年（1727年）に江戸で死去。
養父：大内弥五右衛門 - 源助の子。宝永年間山根村庄屋。宝永4年（1707年）に死去。
母 - 田村直顕弟重顕子孫常葉村庄屋根本善左衛門重元の長女。
姉：三春藩御番組松本杢左衛門の妻。
兄 - 家業を怠り、庄屋職を継がなかった。江戸芝口守山町で「三春屋」という商家を営んだ。
妹：関本村庄屋安瀬八郎右衛門の妻
妻：山本氏
実子：貞之介 – 9歳で死去。
実子：大助。熊耳の実子であり養子蘭室の跡を継いだ。
養子：大内蘭室 – 旧姓は遠藤、名は衡、字は孟玉・子銓、通称は良助。唐津藩に仕えた。門人に大竹麻谷。

熊耳の生家は熊耳村樋渡にあり、母屋・隠宅・土蔵・厩舎・湯殿・厠・鍛冶場を備えた大邸宅で、佐内屋敷と呼ばれていました。菩提寺は船引町笹山の大聖寺です。子孫は安達郡杉田村（現在の二本松市杉田）に移ったとも、庶子が山根村の庄屋株を買って移住したとも言われています。

大内熊耳は、激動の時代を生きた一人の儒学者として、その学問への情熱と、社会への貢献を忘れてはならない人物です。

もう一度検索