章動

章動とは

章動（しょうどう、英: nutation）とは、天体の回転運動において、歳差運動に重なって現れる短周期の微小な変動を指します。特に地球の場合、自転軸の動きに見られるこの現象は、天文学や精密な測地学において重要な要素となっています。

地球の章動のメカニズム

地球は自転軸を中心に回転していますが、完全な球体ではなく、南北に少しつぶれた回転楕円体です。そのため、太陽や月、その他の惑星からの引力（潮汐力）が、地球の自転軸を傾けようとするトルクを生じさせます。このトルクが歳差運動と章動を引き起こす要因となります。

歳差運動が比較的長い周期でゆっくりと変化するのに対し、章動はより短い周期で複雑な変動を示します。これは、太陽や月の位置が変化することによって、トルクの強さや方向が変動するためです。章動のうち、最も大きな成分は18.6年周期で、約9秒の変動に相当します。この変動は「章動定数」と呼ばれ、月の軌道面と黄道の交点が歳差によって一周する周期と一致します。最新のIAU2006歳差章動理論における章動定数は9.2052374"です。章動には他にも様々な周期成分があり、高精度な天文計算を行う際にはこれらの影響も考慮する必要があります。

章動の成分

章動は、黄道に平行な成分と垂直な成分に分解できます。黄道に平行な成分は「黄経における章動（Δψ）」と呼ばれ、天球上の東西方向のずれを示します。一方、黄道に垂直な成分は「黄道傾斜角における章動（Δε）」と呼ばれ、天球上の南北方向のずれを示します。これらの章動成分を歳差運動と合わせて考慮することで、より正確な天体の位置を求めることができます。

歳差と章動を考慮した平均春分点や平均赤道に、章動の影響を加味したものが真春分点・真赤道と呼ばれます。これらの概念は、天体の精密な位置計測に不可欠です。

極運動との違い

地球の自転軸の運動には、力学的に予測可能な章動の他に、予測不可能な変動があります。これらの不規則な変動は「極運動（polar motion）」または「揺動（wobble）」と呼ばれ、章動とは区別されます。極運動は、地球内部の質量分布の変化や地殻変動など、複雑な要因によって引き起こされると考えられています。

章動の研究史

章動は、18世紀初頭にイギリスの天文学者ジェームズ・ブラッドリーによって発見されました。ブラッドリーは、りゅう座γ星の観測を20年間続けた結果、約9秒の章動を発見しました。彼は、以前に発見した年周光行差を確認する目的で観測を続けており、その過程で偶然章動を発見したのです。

まとめ

章動は、地球の自転軸の微小な変動であり、歳差運動と合わせて地球の回転運動を理解する上で不可欠な現象です。天文学、測地学、航法など、様々な分野で精密な計測や計算を行う上で、章動の影響を考慮に入れることは非常に重要です。

参考文献

* 片山真人 著「第2章3節「地球の向き」」、福山登志夫 編 編『天体の位置と運動』 第13巻（第2版）、日本評論社、2017年7月15日。ISBN 978-4-535-60763-7。

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