笏谷石

笏谷石：福井の青石が語る悠久の歴史

福井県福井市足羽山で採掘される笏谷石（しゃくだにいし）は、約1700万年前の火山活動によって生まれたデイサイト軽石火山礫凝灰岩です。足羽山北西山麓の笏谷地区で採掘された石を狭義の笏谷石と呼びますが、一般的には、同様の岩石からなる笏谷層で産出される石材を指します。

笏谷石の組成と特徴

その組成は、SiO2が63～77％、Al2O3が11～22％を占め、石英、曹長石、灰長石、正長石、赤鉄鉱、方解石、緑泥岩などが含まれます。

笏谷石の最大の特徴は、その美しい青緑色です。水に濡れると、より深い青色へと変化し、見る者を魅了します。きめ細かく、柔らかな質感を持つため加工が容易であり、一方で火にも強いという特性も兼ね備えています。

良質な笏谷石は、色合いに応じて「青手」、「中手」、「黒手」に分類され、「青手」は特に「越前青石」または「青石」と呼ばれ、高い価値を持っていました。

笏谷石の成因と地質学的背景

約1700万年前、激しい火山活動によって噴出した火砕流が堆積し、凝縮することで笏谷石が形成されました。堆積サイクルの境界部には、凝灰角礫岩や中粒凝灰岩などの層が挟まれています。これらの地層は、当時の活発な火山活動の様子を物語る重要な地質学的記録です。

歴史に刻まれた笏谷石

笏谷石の歴史は古く、1500年前の古墳時代の石棺からもその存在が確認されています。室町時代の朝倉氏の一乗谷遺跡からは、笏谷石で造られた多くの石仏などが発掘されており、当時、すでに高度な石材加工技術が確立していたことがわかります。

織田信長の家臣、柴田勝家が越前国を支配した際、北ノ庄城の屋根を瓦ではなく笏谷石の瓦で葺いたという記録が残っています。現在も、北ノ庄城址公園には笏谷石瓦を模した城模型が展示されています。また、丸岡城の屋根にも笏谷石瓦が用いられていました。さらに、足羽川の九十九橋の石造部分の橋脚にも笏谷石が使用されており、古くから土木・建築資材として広く利用されてきたことがわかります。

江戸時代には、露天掘りや坑内掘りによって採掘された笏谷石は、北前船によって全国各地へ運ばれ、建築、土木、日用品など様々な用途に使用されました。1899年には、笏谷石を神体とする笏谷神社が創建され、信仰の対象ともなりました。

1998年に採掘が終了するまで、笏谷石は福井の地域社会に深く根ざした重要な資源でした。しかし、2005年には、採掘坑跡の落盤事故が発生するなど、その歴史は現在もなお、私たちの生活に影響を与え続けています。

笏谷石の用途

笏谷石は、その堅牢性と美しい色合いから、多様な用途に使用されてきました。

土木・建築: 石垣、礎石、橋脚、瓦など。
信仰: 石棺、墓石、鳥居、石仏、狛犬など。
* 日用品: 食器など。

今後の課題

笏谷石の採掘は終了しましたが、その歴史的、文化的価値は高く評価されています。今後、採掘跡地の有効活用や、歴史遺産としての保全、さらなる研究が求められています。笏谷石は、単なる石材ではなく、福井の歴史と文化を語る貴重な存在であり、未来へと繋いでいくべき遺産と言えるでしょう。

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