笑福亭松鶴 (6代目)

笑福亭 松鶴（6代目）

笑福亭 松鶴（しょうふくてい しょかく）の六代目は、1918年（大正7年）8月17日に生まれ、1986年（昭和61年）9月5日にその生涯を閉じました。上方落語界に多大な功績を残した落語家であり、上方落語協会の第二代会長も務めました。本名は竹内 日出男。父は五代目笑福亭松鶴、母は六代目林家正楽の養女にあたります。出囃子は「舟行き」で知られています。大阪府大阪市出身で、息子には同じく落語家の五代目笑福亭枝鶴（後に廃業）がいました。上方落語の世界では、単に「六代目」と言えば、この六代目松鶴を指すのが一般的です。

生涯と足跡

六代目松鶴は、大阪市西区に五代目松鶴の次男として生を受けました。少年時代は役者になることを夢見ていましたが、足に重傷を負ったため断念。小学校卒業後、心斎橋のお茶屋で丁稚として働きますが、落語や歌舞伎に没頭し、時には父の資金にまで手をつけて遊び回る奔放な一面を見せました。周囲は彼が五代目松鶴の息子であることや、多くの噺家が世話になっていたことから、厳しく叱ることはなかったといいます。1938年の兵役検査不合格を機にお茶屋を辞め、落語に関わるようになります。父が主宰した「楽語荘」の手伝いや雑誌編集に関わり、1944年には急な出演者の穴埋めとして、芸名を持たぬまま初高座を踏みました。

正式に父に入門したのは1947年。その大きな目から、四代目桂米團治に「目玉の松ちゃん」と呼ばれた尾上松之助にあやかり、「初代笑福亭松之助」としてデビュー。翌年には「四代目笑福亭光鶴」と改名しました。1953年には「四代目笑福亭枝鶴」を襲名。その後、生涯で4度の結婚を経験します。

上方落語協会の設立時には副会長に就任。その後、第二代会長として1977年まで上方落語界を牽引しました。また、メディアにも積極的に出演し、朝日放送の専属タレントとなったこともあります。1962年に念願の「六代目笑福亭松鶴」を襲名。襲名披露興行は道頓堀角座で行われました。数々の受賞歴があり、1981年には上方落語家として初めて紫綬褒章を受章しています。この際、市民税の滞納が発覚し、慌てて納付したという人間味あふれるエピソードも残っています。

私生活では酒と借金にまつわる破天荒な逸話が多く語り継がれています。しかし、弟子たちの証言からは、家ではほとんど酒を飲まず、外では芸人「松鶴」を演じていたのではないかという一面も垣間見えます。特に筆頭弟子の笑福亭仁鶴は、その繊細さを語っています。四度目の結婚相手である衣笠寿栄（あーちゃん）は弟子たちからも慕われ、遺族年金を受けるために正式な入籍をしなかったという話は、厳しい時代の生活を映し出しています。ベルが鳴る電話に出るのが苦手で、まず誰かに取らせてから代わる、あるいは怒鳴って出るという癖も知られています。政治的には、当時の大阪府知事であった黒田了一の支持者として、選挙応援にも駆けつけました。

東京の落語家とも親交が深く、五代目柳家小さんや三笑亭夢楽とは無二の親友でした。七代目立川談志や三代目古今亭志ん朝ら、東京の若手からも慕われ、特に談志は松鶴の繊細さと芸に深く感銘を受けたことを語っています。角座に東京の噺家が来る際には、自らはトリを取らず「遠いところから来てくれたんやさかい、気持ちよう出てもらう」と配慮するなど、義理堅い一面もありました。

芸風と弟子たち

六代目松鶴は、三代目桂米朝、五代目桂文枝、三代目桂春団治と共に「上方落語界の四天王」と称されています。消滅寸前だった上方落語の復興に尽力し、埋もれていた古典落語を掘り起こすとともに、多くの優れた弟子を育て上げ、現在の隆盛の基礎を築きました。芸風は豪放と評されますが、若い頃はテンポの良い迫力ある語り口で人気を博しました。酒にまつわる噺（「らくだ」など）や芝居噺（「蔵丁稚」など）を得意とし、特に酔態や子供の描写は絶妙でした。晩年は体調の影響もあり呂律が回らないこともありましたが、その個性的な語り口もまた魅力の一つとなりました。

「来る者拒まず、去る者追わず」の姿勢で多くの弟子を受け入れ、笑福亭仁鶴、笑福亭鶴光、笑福亭鶴瓶、六代目笑福亭松喬、笑福亭福笑といった、現在の上方落語界を代表する多くの噺家が門下から育ちました。若手への愛情は深く、四代目林家小染には大ネタを直接稽古つけ、事故で急逝した際には桂きん枝の復帰にも尽力するなど、師弟や同業の絆を大切にしました。弟子のヒット曲を厳しく叱咤し、落語に邁進するきっかけを与えたエピソードや、笑福亭笑瓶の入門の際にその落語家としての資質を見抜いた話など、弟子との関係は多くの逸話として残されています。

晩年

最後の高座は1986年5月。同年9月5日、肺炎による呼吸不全と心不全のため、68歳で死去しました。この日は偶然にも父五代目松鶴と、息子五代目枝鶴の誕生日でもありました。最期の言葉には諸説あり、弟子である笑福亭鶴瓶は「ばばしたい」と言い残したと語り、新聞記事には「戦争じゃ！」と主治医に呼びかけたという記述も見られます。公式に発表された辞世の句は「煩悩を我も振り分け西の旅」で、これは父五代目松鶴の辞世の句を踏まえたものです。

没後もその功績は讃えられ、大阪市上方芸能人顕彰や上方演芸の殿堂入りに選ばれています。かつて住居であった大阪市住吉区粉浜の家は、弟子の笑福亭鶴瓶により「帝塚山・無学」という寄席小屋として活用されており、現在も落語会などが開催されています。生誕100年となる2018年には記念落語会が盛大に催され、現存する多くの弟子・孫弟子が一堂に会し、改めてその偉大さが偲ばれました。

六代目笑福亭松鶴は、波乱に満ちた生涯を送りましたが、その豪放さと繊細さ、そして上方落語への情熱をもって、消えかかっていた火を再び燃え上がらせた、文字通り「上方落語中興の祖」と呼ぶにふさわしい存在です。

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