第一号型掃海特務艇

旧日本海軍が運用した掃海特務艇の艦級です。その船体形状が漁船に似ていたことから、「漁掃（ぎょそう）」とも通称されました。

計画の背景

当時の日本海軍が保有していた正規の掃海艇は高い性能を有していましたが、有事における迅速な大量建造には適さず、また予算の制約から必要数を十分に整備することが困難でした。一方、日中戦争の勃発により機雷掃海の必要性が高まると、日本海軍はトロール漁船などの漁船を徴用し、特設掃海艇として活用しました。これらの特設掃海艇は実用性を示したものの、正規の艦艇としては不十分な点も多く見られました。

このような状況下、イギリス海軍が正規掃海艇の補助戦力として、構造が簡単で建造費用も抑えられる艦船を整備していたことに着目し、日本海軍でも昭和13年（1938年）から研究を開始しました。その結果、既存のトロール漁船の設計を基にした、安価で建造が容易な掃海艇の計画が進められます。当初は雑役船としての建造が想定されており、これが「漁掃」という通称の由来となりました。

昭和15年度の第二次追加計画（通称マル臨計画）において、試験的に6隻の建造が予算化されました。この予算は昭和16年度の臨時軍事費に含まれ、1隻あたり1,050,000円、合計6,300,000円でした。続いて、昭和16年度の戦時建造計画（通称マル急計画）では、さらに16隻の建造が計画され、こちらは1隻あたり1,431,000円、合計22,896,000円の予算が成立しました。

艇型と構造

本型の設計においては、可能な限り構造と艤装の簡素化が徹底されました。船体形状はトロール漁船そのままであり、これは戦時中に不要となった場合でも、容易に漁船として再利用できることを考慮したためです。主要な構造の変更点としては、漁船本来の船艙部分を兵員居住区や弾薬庫などに転用したこと、そして機械室へのアクセスを船橋から船内を通って可能にした程度にとどまりました。舵取機械については、初期に竣工した艇では手動の桿鎖式が採用されましたが、後期建造艇ではスピンドル式に変更されています。

兵装としては、船首に短8cm高角砲1門、船橋上に7.7mm単装機銃1挺を装備していました。また、爆雷も搭載しており、機雷掃海のほか、対潜戦闘にも対応できる汎用艇としての能力も有していました。

運用開始後、掃海作業に用いる後部甲板のスペースが不足していることが判明したため、後に上部構造物の後端部にあった浴室を撤去し、作業甲板を拡張する改修が行われました。また、機銃も増強され、終戦時には25mm単装機銃が2挺から4挺装備されていたとされます。特に「あ号作戦後の兵装増備の状況調査」（昭和19年8月20日付報告）によると、「第6号」は船橋前に機銃台を設置して25mm単装機銃1挺、煙突直前の上部構造物上左右舷に機銃台を設けて各1挺、後部マスト直後に1挺の計4挺を装備していました。一方で、「JAPANESE NAVAL VESSELS AT THE END OF WAR」の記述では、「第6号」以外の艇では船橋前部ではなく船橋左右舷や後部マスト直後に機銃が設置され、船橋上の機銃も残していたとされ、艇ごとの差異があったと考えられます。

マストについては、前部、後部ともに単マストが標準でしたが、「第13号」は後部が三脚マスト、「第14号」は後部が支柱を追加した二脚形式となっていました。さらに、第11号、第12号、第17号、第18号、第19号、第20号、第22号の各艇には、船体にアンカーを収めるためのアンカーリセスが設けられています。

運用と艇の一覧

本型の建造は、大型漁船の建造経験が豊富な大阪鉄工所（後の日立造船）の桜島工場および彦島工場（後に三菱重工業下関造船所と合併）に加え、艦艇建造経験が少ない中小の造船所でも多数行われました。昭和17年（1942年）1月に「第1号」が竣工して以降、昭和18年（1943年）10月までに全22隻が完成しました。第二次世界大戦中に7隻が戦没しています。

本型は鋼製船体であったため、磁気機雷の掃海には適しませんでした。戦後も残存した11隻は、係維機雷（繋留機雷）の掃海任務などに従事した後、連合国への賠償艦として引き渡されました。

建造所の略称は以下の通りです。

- 桜島：大阪鉄工所（日立造船）桜島工場
- 下関：大阪鉄工所（日立造船）彦島工場（後に三菱重工業下関造船所と工場合併）
- 浪速：浪速船渠
- 名村：名村造船所
- 佐野安：佐野安船渠

同型艇の一覧は以下の通りです。

第1号: 1942年1月31日竣工（桜島）。1942年5月4日、米艦載機の攻撃により喪失（サボ島付近）。
第2号: 1942年2月28日竣工（桜島）。1942年5月4日、米艦載機の攻撃により喪失（サボ島付近）。
第3号: 1942年5月30日竣工（桜島）。1945年7月24日、米艦載機の攻撃により喪失（スラバヤ）。
第4号: 1942年6月29日竣工（浪速）。1944年7月19日、英軍機の攻撃により喪失（チモール島）。
第5号: 1942年6月30日竣工（桜島）。終戦時トラックに所在。
第6号: 1942年10月30日竣工（浪速）。1945年8月10日、米艦載機の攻撃により喪失（岩手県山田湾）。
第7号: 1942年12月28日竣工（下関）。終戦時シンガポールに所在。英軍管理下でフェリーとして使用後、1946年7月に連合国へ引き渡し。
第8号: 1943年1月31日竣工（下関）。1944年10月21日、米艦載機の砲撃により喪失（フィリピン・ギガンデス島沖）。
第9号: 1942年11月30日竣工（名村）。終戦時シンガポールに所在。英軍管理下でフェリーとして使用後、1946年7月に連合国へ引き渡し。
第10号: 1942年11月30日竣工（佐野安）。1945年1月12日、米駆逐艦の砲撃により喪失（ルソン島ピガン沖）。
第11号: 1943年2月24日竣工（浪速）。戦後掃海艦指定、1947年11月14日英国へ引き渡し後、解体。
第12号: 1943年3月31日竣工（浪速）。戦後掃海艦指定、1947年10月3日ソ連へ引き渡し。
第13号: 1943年4月14日竣工（下関）。戦後掃海艦指定、1947年10月1日青島で米国に引き渡し。
第14号: 1943年4月24日竣工（下関）。戦後掃海艦指定、1947年10月3日中華民国へ引き渡し、1948年に中共所属。
第15号: 1943年4月30日竣工（名村）。終戦時鎮海に所在。
第16号: 1943年3月31日竣工（佐野安）。戦後掃海艦指定、1947年11月14日英国へ引き渡し後、解体。
第17号: 1943年5月28日竣工（浪速）。戦後掃海艦指定、1947年10月3日ソ連へ引き渡し。
第18号: 1943年7月31日竣工（名村）。戦後掃海艦指定、1947年10月1日青島で米国に引き渡し。
第19号: 1943年6月30日竣工（佐野安）。戦後復員輸送艦として使用後、1947年10月3日中華民国に引き渡し、1970年に同海軍籍を除籍。
第20号: 1943年7月31日竣工（浪速）。戦後復員輸送艦として使用後、1947年10月3日ソ連に引き渡し。
第21号: 1943年6月15日竣工（下関）。戦後掃海艦指定、1947年10月1日青島で米国に引き渡し。
第22号: 1943年10月20日竣工（名村）。戦後掃海艦指定、1947年10月3日中華民国に引き渡し、1970年に同海軍籍を除籍。

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