第一次英蘭戦争

第一次英蘭戦争：海洋覇権をかけた闘争

1652年から1654年にかけて勃発した第一次英蘭戦争は、イングランド共和国とネーデルラント連邦共和国（オランダ）の両海軍による、主に海上を戦場とした戦争でした。貿易を巡る長年の対立が、イングランドによるオランダ商船への攻撃という形で戦争へと発展しました。戦争の結果、イングランドはイングランド近海の制海権を掌握し、オランダはイギリスとその植民地との貿易において、イングランドによる独占を認めざるを得ませんでした。この戦争は、その後長く続く英蘭戦争の最初の幕となりました。

戦争の背景：衰えゆく同盟と台頭する競争

16世紀、イングランドとオランダはハプスブルク家の脅威に対抗するため軍事同盟を結び、1588年のアルマダ海戦では協力してスペインと戦いました。八十年戦争では、イングランドはオランダを支援しましたが、17世紀中頃には状況が一変しました。

スペインとの戦争終結後、オランダはヨーロッパ最大の商業艦隊を擁し、世界各地で貿易を独占。東インド諸島やブラジルなどからの莫大な利益を享受し、イングランドと北米植民地間の貿易にも影響力を及ぼしていました。一方、イングランドは、オランダの自由貿易を原則とする商取引システムに対し、物品税や関税を基盤とする独自のシステムを持っていました。これにより、オランダ製品は価格競争力に優れ、イングランドの伝統的な市場までも奪っていきました。

さらに、イングランド内戦（1642-1651年）の混乱に乗じ、オランダ船はイングランド市場にさらに進出。イングランドは、オランダが内戦から利益を得ていると非難しました。三十年戦争後のオランダの通商優位性、そしてイングランド内戦による混乱が、両国の通商不均衡を拡大させる要因となりました。

軍事的準備：海軍力の比較と政治的緊張

軍事面では、イングランド共和国はクロムウェルの支援を受け、海軍を拡充・改革。一方、オランダ海軍は、スペインとの和平後に海軍力を削減しており、その準備はイングランドに劣っていました。イングランドは、オランダ商船隊の東方への通路を押さえ、さらに強力な火力の艦船を保有していました。

政治的には、イングランド内戦中にオランダ総督のオラニエ公フレデリック・ヘンドリックはチャールズ1世を支援していましたが、1649年にチャールズ1世が処刑されると、クロムウェルはオランダを敵視するようになりました。しかしながら、両国とも共和政国家でありプロテスタントであるという共通点もありました。オランダでは、オラニエ派と反オラニエ派の対立が激化していました。

1651年に成立した航海条例は、イングランド船のみがイングランド植民地との貿易を許可するもので、オランダの貿易を制限するものでした。これはオランダの誇りを傷つけ、戦争の原因の一つとなりました。1651年には、多くのオランダ商船がイングランドによって拿捕され、オランダ側はイングランドに抗議しましたが、受け入れられませんでした。

交渉の失敗と戦争の勃発

1650年、オラニエ公ウィレム2世の急死後、反オラニエ派は勢力を強め、イングランドとの連合の可能性を探るも、クロムウェルの提案は拒否されました。クロムウェルの世界分割構想は、オランダにとって不利益であり、両国の関係をさらに悪化させました。

イングランドは、フランス王党派を支援するフランス船に対する私掠免許を交付、多くのオランダ船を拿捕しました。航海条例への反発、そしてオランダ商船の拿捕が続き、ついに1652年 5月29日、グッドウィン・サンズの戦いで両国海軍が衝突。第一次英蘭戦争が勃発しました。

海上の激戦：主要な海戦と経済的打撃

戦争初期は、イングランドによるオランダ護送船団への攻撃が続きました。主要な海戦として、プリマス沖海戦、ケンティッシュ・ノックの海戦、ダンジェネス岬の海戦、ポートランドの海戦、ガッバードの海戦、スヘフェニンゲンの海戦などが挙げられます。これらの海戦では、両国とも大きな損害を受けました。

特にイングランドによる海上封鎖は、オランダ経済に大きな打撃を与え、食糧危機をもたらしました。オランダは、植民地を守ることも困難になり、ブラジルをポルトガルに奪還される事態となりました。

和平への道：ウェストミンスター条約

戦争の長期化に伴い、両国とも消耗し、和平を求める声が高まりました。1654年4月15日、ウェストミンスター条約が締結され、第一次英蘭戦争は終結しました。この条約により、オランダはイングランドへの賠償金を支払うこととなり、航海条例は継続されることとなりました。しかし、両国の商業的なライバル関係は解消されませんでした。

戦争の影響とその後

第一次英蘭戦争は、両国の経済的・政治的利害の対立を浮き彫りにしました。イングランドは制海権を掌握し、オランダの貿易を制限することに成功しましたが、両国の関係は依然として緊張したままでした。この戦争は、後の英蘭戦争の舞台を設定し、両国の覇権争いを激化させました。また、イングランドはオランダとの講和後、スペインへの攻撃を開始しました。この戦争は、海洋覇権を巡る両国の熾烈な闘争の始まりに過ぎなかったのです。

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