第二の乙女の悲劇

『第二の乙女の悲劇』（The Second Maiden's Tragedy）は、1611年に書かれたジャコビアン時代の戯曲で、国王一座によって上演されました。原稿のみが現存しており、その写しには検閲官のメモや削除の跡が見られます。この劇は、1642年に国王一座が解散した後、出版者のハンフリー・モーズリーが入手しましたが、印刷はされませんでした。1807年に大英博物館に購入され、現在に至ります。一般的に、作者はトマス・ミドルトンであるとされています。

題名について

この劇の元々の題名は不明です。原稿には題名がなく、検閲官のジョージ・バックのメモも「（名前が書かれていないので）この第二の『乙女の悲劇』は……」と始まっています。これは、バックが当時人気のあったボーモント&フレッチャーの『乙女の悲劇（The Maid's Tragedy）』に仮託して名付けたものでした。出版者のモーズリーは、この劇を『乙女の悲劇第2部（The Maid's Tragedy, 2nd Part）』として記録しました。しかし、現在ではバックがつけた『第二の乙女の悲劇』という題名が一般的に使われています。

近年の研究では、この題名に対する異議も出ています。マーティン・ウィギンスは、「第二の」という語は誤解であり、実際にはバックが『乙女の悲劇』と呼んだだけだと主張しました。ジュリア・ブリッグスは、「乙女」という言葉が劇中に登場しないことを指摘し、『貴婦人の悲劇（The Lady's Tragedy）』に改名することを提唱しました。また、1984年のUpstream Theatreの上演では『The Tyrant（暴君）』、1994年のブリストルでのHen and Chickenの上演では『貴婦人の悲劇』として上演されました。

作者について

この劇の作者についても論争がありました。原稿には、トマス・ゴフ、ウィリアム・シェイクスピア、ジョージ・チャップマンの名前が線で消された書き込みが残っています。しかし、現代の研究では、言語学的分析や他の作品との類似性から、トマス・ミドルトンが真の作者であるという見解が主流です。

シェイクスピアとの関連性

筆跡鑑定人のチャールズ・ハミルトンは、この劇の原稿がシェイクスピアの失われた戯曲『カルデーニオ』であると主張しましたが、文学研究者の多くはこの説を否定しています。しかし、この主張が1990年代にシェイクスピアとの関連を宣伝した上演を増やし、劇の知名度を高めたことも事実です。

あらすじ

第1幕

第1場宮廷: 暴君が正統な王ゴヴィアヌスを追放し、ゴヴィアヌスの婚約者である貴婦人を妃にしようとします。貴婦人は喪服を着ており、暴君との結婚を拒否します。暴君は貴婦人を自宅監禁にし、エルヴェシウスに説得を約束させます。
第2場アンセルムスの家: ゴヴィアヌスの兄弟アンセルムスは、妻の貞節を疑い、友人のヴォタリウスに誘惑を依頼します。ヴォタリウスは誘惑に成功し、妻と愛し合うようになります。一方、妻の侍女レオネッラは、二人の関係を疑い、恋人のベッラリウスに相談します。

第2幕

第1場ゴヴィアヌスの家: エルヴェシウスは娘の貴婦人を説得しようとしますが、貴婦人は拒否します。ゴヴィアヌスが現れ、エルヴェシウスはゴヴィアヌスへの忠誠を誓います。
第2場アンセルムスの家: ヴォタリウスと妻が愛し合っているところを、アンセルムスが目撃します。ヴォタリウスはアンセルムスに嘘をつき、アンセルムスは妻をより大切にすることを誓います。しかし、ヴォタリウスは妻を愛してしまい、自己嫌悪に陥ります。レオネッラはアンセルムスに妻とヴォタリウスの関係を暴露します。
第3場宮廷: 暴君は貴婦人を誘拐しようと、ソフォニラスに宝石を与え、ごろつきを集めるように命じます。

第3幕

第1場ゴヴィアヌスの家: ソフィニラスは貴婦人を誘惑しようとしますが、ゴヴィアヌスに刺されて死にます。ごろつきが押し入り、貴婦人はゴヴィアヌスに自分を殺してほしいと頼み、自ら命を絶ちます。ゴヴィアヌスは貴婦人を埋葬します。

第4幕

第1場アンセルムスの家: ヴォタリウスは妻に謝罪し、妻は夫に貞節を示す芝居を計画します。しかし、レオネッラは妻の計画を暴露しようとします。妻はレオネッラを宝石で買収しようとしますが、逆にレオネッラに操られてしまいます。
第2場宮廷: 暴君は貴婦人の死を知り悲しみます。
第3場大聖堂・貴婦人の墓の前: 暴君は貴婦人の死体を掘り起こし、宮廷に持ち帰ります。
第4場貴婦人の墓: 貴婦人の亡霊が現れ、ゴヴィアヌスに暴君の死姦計画を伝えます。

第5幕

第1場アンセルムスの家・妻の寝室: 妻は計画通りヴォタリウスを刺しますが、レオネッラも刺し殺します。ベッタリウスがアンセルムスと戦い、二人とも致命傷を負い、妻も巻き込まれて死にます。
第2場宮廷: ゴヴィアヌスは画家に変装し、貴婦人の死体に毒を塗ります。暴君が死体にキスをすると毒が回り、貴婦人の幽霊が現れ、暴君の死を見届けます。ゴヴィアヌスは王に復帰し、劇は幕を閉じます。

この劇は、欲望、裏切り、復讐が複雑に絡み合った、スリリングな物語です。

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