第五次イタリア戦争

第五次イタリア戦争（1542年 - 1546年）

第五次イタリア戦争は、16世紀中頃にヨーロッパを舞台に繰り広げられた大規模な戦争です。フランス王フランソワ1世とオスマン帝国のスルタン・スレイマン1世が同盟を結び、神聖ローマ皇帝カール5世とイングランド王ヘンリー8世を中心とする勢力と対立しました。この戦争は、イタリア、フランス、ネーデルラントなど広範囲に及ぶ地域で戦闘が繰り広げられ、西ヨーロッパの主要国を巻き込む激しい戦いとなりました。しかし、最終的には決定的な勝利を収めることができず、各国の財政を疲弊させる結果となりました。

戦争の背景

この戦争の背景には、前回の第四次イタリア戦争を終結させたニースの和約の不備がありました。この和約は、カール5世とフランソワ1世の長年にわたる対立、特にミラノ公国を巡る両者の主張を解決できませんでした。フランソワ1世はミラノ公国への要求を諦めず、カール5世はフランソワ1世が過去に署名したマドリード条約の履行を求めていました。また、両者は互いに領土に対する要求を持っており、対立は深刻化していました。

1538年から1539年にかけて両国は協議を続けましたが、合意に至ることはありませんでした。1539年、カール5世がヘントで反乱に直面した際、フランソワ1世はカール5世をフランスに招き、歓待しましたが、政治的な問題の解決は先延ばしにされました。1540年3月、カール5世は政略結婚を提案しましたが、フランソワ1世はこれを拒否しました。両者の交渉は決裂し、フランソワ1世は同盟国を求めることになります。

フランソワ1世は、ユーリヒ＝クレーフェ＝ベルク公ヴィルヘルム5世やシュマルカルデン同盟に接触を図りましたが、同盟締結は失敗に終わりました。一方で、フランスはオスマン帝国との同盟を更新し、スレイマン1世はヨーロッパにおける争いを煽りました。1541年7月、フランス大使が帝国軍によって殺害された事件をきっかけに、両者の緊張はさらに高まりました。カール5世は北アフリカ遠征を計画しており、ヨーロッパでの争いを避けたかったため、フランソワ1世に宣戦しないことを約束しましたが、遠征の失敗後、フランソワ1世は1542年7月にカール5世に宣戦布告しました。

戦争の経過

フランス軍は、リュクサンブールを攻撃し短期間占領しましたが、スペイン北部のペルピニャンの包囲には失敗しました。また、フランソワ1世は塩税改革に起因する反乱に対応するため、身動きが取れない状況にありました。一方、ヘンリー8世は、フランスが同盟条約で定められた年金の支払いを拒否したことやスコットランドへの介入に不満を抱いており、フランスに対する戦争の準備を進めていました。ヘンリー8世は、1543年2月にカール5世と同盟を結び、同年6月にフランスに宣戦布告しました。イギリス軍は、ネーデルラントの守備に就き、フランス軍はリレやランドルシーなどを占領しましたが、カール5世はユーリヒ公国に侵攻し、戦況は複雑化しました。1543年9月、フランス軍はリュクサンブールを奪還しましたが、ヴィルヘルム5世がカール5世に降伏したため、戦況は不利になりました。

地中海では、オスマン帝国のバルバロス・ハイレッディン率いる艦隊がフランスに派遣され、ニースを包囲しました。バルバロスはトゥーロンを基地として利用しましたが、フランソワ1世はオスマン軍の国内での行動に不満を抱いていました。ピエモンテでは、フランス軍と帝国軍が対峙し、1544年4月にはチェレゾーレの戦いが行われましたが、決定的な戦果は得られませんでした。フランス軍は勝利したものの、カール5世がフランス本土に侵攻したため、ピエモンテ駐留軍の大半を呼び戻さざるを得ませんでした。

1544年6月、カール5世とヘンリー8世はフランスへの侵攻を計画し、大軍を動員しました。ヘンリー8世はブローニュ＝シュル＝メールを包囲しましたが、カール5世はサン＝ディジエで足止めを食らいました。カール5世はその後、シャンパーニュ地方を荒らしましたが、パリを占領することはできませんでした。フランス軍はパリの防衛に集中し、皇帝軍の侵攻を食い止めました。1544年9月、カール5世とフランソワ1世はクレピーの和約を締結し、戦争は終結に向かいました。

戦争の終結

クレピーの和約では、両者がお互いの領土に対する請求を放棄し、オルレアン公とカール5世の娘または姪の結婚が取り決められました。しかし、この和約はヘンリー8世やオスマン帝国には不評で、オルレアン公の死によって事実上無効となりました。フランソワ1世は、クレピーの和約後もヘンリー8世との戦いを続け、ブローニュを巡って激しい攻防が繰り広げられました。フランス軍はイングランドへの上陸作戦を試みましたが、失敗に終わりました。1546年6月、アルドレスの和約が締結され、イングランドがブローニュを一時的に領有し、戦争は終結しました。

この戦争は、フランソワ1世とヘンリー8世の治世を通して最も出費のかさむ戦争となり、両国の財政に大きな負担をかけました。1547年、両王が相次いで死去し、イタリア戦争は次の世代に引き継がれることになりました。

戦争の影響

この戦争は、ヨーロッパの政治情勢に大きな影響を与えました。各国の財政が疲弊し、宗教改革の動きにも影響を与えました。また、フランスとオスマン帝国の同盟は、ヨーロッパにおける国際関係を複雑化させました。この戦争で得た教訓は、その後のヨーロッパの軍事戦略に大きな影響を与えました。

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