第五王国派

第五王国派：キリストの王国を目指したピューリタン革命家たち

第五王国派は、17世紀イングランドで活躍した急進的なピューリタン派の一グループです。彼らは、旧約聖書ダニエル書に基づき、バビロニア、ペルシャ、ギリシャ、ローマに続く「キリストの王国（第五王国）」の到来を信じていました。この理想社会の実現を目指し、イングランド内戦期において重要な役割を果たす一方、王政復古後には反乱を起こし、鎮圧されて衰退しました。

運動の始まりと信条

1649年1月、チャールズ1世処刑後、イングランド東部のノーフォークで「ノーフォーク請願」と呼ばれる文書が出されました。これが第五王国派の運動の始まりです。この運動は、ロンドンやウェールズへと拡大していきました。

彼らの思想の中核は、千年王国論に基づく理想社会の実現でした。独立派の流れを汲む彼らは、バプテストやアナバプテストなどのグループと繋がりを持ち、ジョン・ロジャーズやクリストファー・フィーク、ヴァヴァサー・パウエルといった独立派聖職者も第五王国派に加わりました。しかし、次第に聖職者や軍士官を中心とする穏健派と、職人や手工業者を中心とする急進派に分裂していきました。穏健派の中心人物はウィリアム・アスピンウォール、急進派の中心人物はトマス・ヴェンナーです。さらに、ニューモデル軍士官にも信者がおり、トマス・ハリソンはその代表格でした。

議会における活動とクロムウェルとの関係

第五王国派はピューリタン独裁を主張し、内戦を聖戦と見なしていました。また、イングランド共和国で弾圧されていた平等派の政治運動を受け継ぎました。ハリソン率いる派閥は、1653年4月20日にランプ議会を解散、クロムウェルと結びつき、7月4日に開会されたベアボーンズ議会に参加しました。議会で急進的な政治・宗教改革に着手しましたが、これは議会穏健派とクロムウェルの警戒心を招きました。議会内部、そして軍内部でも対立が激化し、1653年12月12日、クロムウェルとランバートらによるクーデターで議会は解散、第五王国派は排除され、ハリソンは軍から追放されました。

王政復古後の反乱と衰退

クロムウェルによる護国卿時代には、第五王国派は反体制派となりました。パウエルやフィークらはクロムウェルを激しく非難し、投獄されても抵抗を続けました。穏健派が逮捕や転向を繰り返す中、ヴェンナー率いる急進派が台頭し、武力蜂起で共和国を倒そうと試みましたが、失敗しました。

1660年、チャールズ2世の帰還による王政復古後も、ヴェンナーは政府打倒の方針を変えず、1661年1月、ロンドンで反乱を起こしましたが、鎮圧され処刑されました。ハリソンも処刑され、集会禁止令が出されたことで、第五王国派は衰退しました。しかし、1685年のモンマスの反乱には、第五王国派の残党が参加したことが確認されています。

歴史における評価

かつては狂信的と見なされてきた第五王国派ですが、20世紀以降、歴史学者クリストファー・ヒルによって「革命的無政府主義の一形態」と再評価されました。日本でも、田村秀夫や岩井淳らによる研究が進められています。特に岩井淳は、アスピンウォールとヴェンナーの北アメリカ移住経験に着目し、彼らがアメリカの神権政治や千年王国論に影響を受け、君主制打倒を目指した点を評価しています。第五王国派の歴史は、宗教的理想と政治的現実の複雑な絡み合いを示す、興味深い事例となっています。

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