第29師団 (日本軍)

第29師団

第29師団は、大日本帝国陸軍の師団の一つです。1941年（昭和16年）に編成され、太平洋戦争中に激戦地となったグアム島で壊滅しました。その編成から終戦までの足跡を以下にまとめます。

沿革

1941年（昭和16年）

2月：世界情勢の緊張により、戦力増強のため、当初予定を繰り上げて歩兵団司令部と歩兵連隊1個欠で編成が下令されました。欠如部隊は、第29歩兵団司令部に転用予定の歩兵第29旅団司令部（静岡）と歩兵第18連隊（豊橋）で、当時、中支で第3師団隷下で作戦中でした。
4月1日：第14師団歩兵第50連隊（松本）と第16師団歩兵第38連隊（奈良）を編入。その他の兵種部隊は、留守第3師団（名古屋）補充隊で編成され、一部欠けた状態で師団編成が完了しました。関東軍戦略総予備師団として遼陽に配備されました。
7月：関東軍特種演習に参加し、戦時部隊に切り替えるための臨時編成が命じられました。山砲兵第29連隊には、第11師団山砲兵第11連隊から要員が転属されました。
12月8日：対米開戦となり、関東軍兵団は静謐保持を命じられました。

1942年（昭和17年）

この年、名古屋師管より新兵が入隊。歩兵第50連隊には岐阜県の兵が入隊しました。
7月：欠如部隊が中国から満州に到着し、編合されました。

1943年（昭和18年）

在満師団は駐屯体制に一部復員し、編成が縮小されました。

1944年（昭和19年）

2月10日：南方派遣のため、大陸用野戦師団から島嶼戦用海洋師団に編制改正されました。歩兵連隊は歩兵大隊3個、砲兵大隊1個、工兵・補給・通信・衛生中隊各1個という構成になりました。東部軍に編入されました。
2月20日：絶対国防圏構成のため、中部太平洋（マリアナ）派遣が決定し、第31軍（小畑英良中将）に編入されました。同日、遼陽を出発し釜山に集結しました。
2月24日：師団主力は釜山港を出港。
2月25日：宇品沖（広島）に仮泊し、物資を積載。駆逐艦「岸波」「朝霜」「沖波」の護衛の下、出航しました。
2月29日：沖大東島南方200kmにおいて、米潜水艦トラウトの雷撃を受け、輸送船「安藝丸」が大破（30名戦死）、「東山丸」が小破（不発）、「崎戸丸」が沈没（歩兵第18連隊長・門間健太郎大佐以下2,358名、船員52名、船舶砲兵65名が戦死）。海没した連隊は、その後、サイパン島で戦力を回復し、グアムへ移動しました。
3月4日：歩兵第38連隊は大宮島（グアム）に上陸しました。当初の計画と異なり、歩兵第50連隊はテニアン島へ。司令部他主力は大宮島で、先に到着していた独立混成第48旅団と共に南部マリアナ地区集団を構成し、防衛配備につきました。
6月11日：米軍が大宮島に空襲を開始。飛行場や港湾施設が破壊されました。
6月15日：米軍はサイパン島に上陸を開始しました。
6月21日：軍司令官・小畑英良中将がパラオから大宮島に到着しました。
7月8日：大宮島への艦砲射撃が開始されました。
7月9日：サイパン島守備の中部太平洋方面艦隊（南雲忠一中将）、第31軍（井桁敬治少将：軍司令官代理）が総攻撃を決行し、玉砕しました。
7月18日：大宮島に本格的な空母機による空襲と艦砲射撃が開始されました。
7月21日：午前7時、艦載機による空襲の後、昭和湾と明石湾の2ヶ所からアメリカ軍が上陸を開始しました。午前7時30分、敵舟艇を海岸近くまで引き付け、山砲・速射砲・機関銃を集中して数十隻を撃破しましたが、米軍の艦砲と空襲により火砲の大半が破壊され、水際陣地が突破されました。牧山（フェンナ）付近に布陣していた戦車第9連隊第1中隊（幸積三中尉）の軽戦車5両を先頭に、歩兵第38連隊主力は、番庄崎東側の橋頭堡正面に総攻撃を開始しました。午後5時30分、歩兵第38連隊の末長連隊長から、高品師団長に決別の電話連絡がありました。本部洞窟内で軍旗を奉焼しました。午後10時30分、総攻撃を開始しました。
7月24日：高品彪師団長は戦力の極度の低下を鑑み、明石湾において総反撃を決意し、「25日2400、総反撃」を下令しました。
7月26日：午前8時、敵の激しい防御砲火と艦砲射撃に阻まれ、総反撃は頓挫しました。
7月27日：表半島守備隊指揮官・755空司令 楠木中佐は残存兵力を結集し総攻撃を敢行、玉砕しました。
7月28日：本田台守備の独立混成第10連隊長・片岡一郎中佐が戦死。高品師団長が陣地移動中に的野高地(マカジナ)中腹で戦死。軍司令官・小畑中将が代わって指揮を継承。徒歩で又木山（マタグアック、大宮島北端）へ向かいました。生存者は本田台南側谷地、的野高地付近から逐次、折田に集結。春田山に左翼隊集成3個中隊、平塚に右翼隊集成5個中隊を配置（軍参謀長・田村義冨少将指揮）。米軍の侵攻を阻止し、重傷者を後送しました。
7月31日：艦砲射撃と航空機の支援を受けた米軍は北方に進攻し、明石市、次いで南下を開始し、品川、折田西部に侵攻しました。
8月2日：春田山に戦車を伴う米軍が侵攻しました。
8月3日：平塚に戦車を伴う米軍が侵攻。火砲は全損し、将兵も大損害を受け、防御線が突破されました。軍は多久井岬の線で敵を阻止すべく、部隊を右翼隊（藤井少佐指揮250名）、中央隊（佐藤少佐指揮400名）、左翼隊（大川少佐指揮250名）に再編しました。武器弾薬の欠乏、さらに水不足の中、敵の侵攻阻止にあたりました。
8月6日：中央隊守備の里井、右翼隊守備の宇久井陣地も突破されました。
8月7日：敵は高原山、又木山に浸透しました。
8月9日：米軍戦車50両が軍司令部の又木山前面に侵攻しました。対戦車装備を持たない軍は苦戦しました。小畑中将は兵力の激減を鑑み、11日黎明を期して総攻撃を決意しました。
8月10日：敵戦車の攻撃により又木山の防御線が突破され、司令部も敵の攻撃に晒されましたが、敵は夜半に一旦集結地に後退しました。生存者約300名は司令部壕に集結しました。小畑中将は大本営に決別電を打電しました。
8月11日：午前0時、通信機を破壊し、重要書類を焼却。午前7時、米軍戦車が再び侵攻を開始し、戦闘指揮中に作戦参謀・橋田精中佐が戦死。午後2時35分、小畑軍司令官と田村義冨参謀長は司令部壕内で拳銃で自決し、組織的な抵抗が終了しました（グアムの戦い）。
8月12日：敵は又木山東側道路を突破し、北島角方面に侵攻しました。
8月13日：白浜海岸を見下ろす台端に達し、大宮島守備隊は玉砕しました。生存者はなおも密林に籠もって戦闘を継続しました。

終戦後

1945年（昭和20年）9月15日：第29師団参謀・武田英之中佐以下1,000名が米軍に正式投降しました（守備隊総員20,810名、19,135名が戦死、1,305名が生還）。
1972年（昭和47年）2月2日：歩兵第38連隊の補給中隊所属の横井庄一軍曹が現地人に発見され、帰還しました。

師団概要

歴代師団長

上村利道 中将：1941年4月1日 - 1943年10月29日
高品彪 中将：1943年10月29日 - 1944年7月28日（戦死）

参謀長

岡部英一 大佐：1941年4月1日 - 1944年7月26日（戦死）

編成時

第29歩兵団司令部（欠）
歩兵第18連隊（欠）
歩兵第38連隊（奈良）
歩兵第50連隊（松本）
騎兵第29連隊（名古屋）
山砲兵第29連隊（名古屋）
工兵第29連隊（名古屋）
輜重兵第29連隊（名古屋）
第29師団通信隊（名古屋）
第29師団衛生隊
第29師団兵器勤務隊
第29師団第1野戦病院
第29師団第2野戦病院
第29師団第4野戦病院
第29師団病馬廠
第29師団防疫給水部

最終所属部隊

歩兵第18連隊（豊橋→名古屋）：大橋彦四郎大佐
歩兵第38連隊（奈良→静岡）：末長常太郎大佐
歩兵第50連隊（松本→岐阜）：緒方敬志大佐
第29師団戦車隊：佐藤秀夫少佐
第29師団輜重隊：洞下国吉中尉
第29師団海上輸送隊：藤井貞寿中佐
第29師団通信隊：須田保大尉
第29師団兵器勤務隊：亀井秀次中尉
第29師団経理勤務部：水谷松男中佐
第29師団野戦病院：森本和雄中佐
第29師団防疫給水部：立村弘造少佐

脚注

注釈

出典

参考文献

外山操・森松俊夫編著『帝国陸軍編制総覧』芙蓉書房出版、1987年。
秦郁彦編『日本陸海軍総合事典』第2版、東京大学出版会、2005年。
福川秀樹『日本陸軍将官辞典』芙蓉書房出版、2001年。
外山操編『陸海軍将官人事総覧 陸軍篇』芙蓉書房出版、1981年。
山本 茂実『松本連隊の最後』 (1978年) (角川文庫)。
グランドパワー『日本軍機甲部隊の編成装備(1)』。
グランドパワー『日本軍機甲部隊の編成装備(2)』。
グランドパワー『日本軍陸軍の特種部隊』。
『陸軍軍戦備』朝雲新聞社。
別冊歴史読本特別増刊号『日本陸軍連隊総覧・歩兵編』。
別冊歴史読本特別増刊号『日本陸軍機械化部隊総覧』。
別冊歴史読本特別増刊号『日本陸軍部隊総覧』。
別冊歴史読本特別増刊号『日本陸軍師団総覧』。
別冊歴史読本特別増刊号『日本陸軍総覧』。
別冊1億人の昭和史『日本陸軍史』、毎日新聞社。
1億人の昭和史『日本の戦史』シリーズ①～⑩、毎日新聞社。
山砲兵第十一聯隊史編集事務局『山砲兵第十一聯隊史』。
山本 茂実『松本連隊の最後』 (1978年) (角川文庫)。

関連項目

* 大日本帝国陸軍師団一覧

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