第30回全日本吹奏楽コンクール課題曲

1982年に開催された第30回全日本吹奏楽コンクールは、全日本吹奏楽連盟と朝日新聞社の共催によって運営されました。この記念すべき大会のために指定された課題曲は全4曲あり、本記事ではそれらの楽曲に関する情報や、当時の吹奏楽界における評価などを詳しく紹介します。

課題曲の背景と全体傾向

この年の課題曲における最大の特徴は、全4曲のうち3曲が一般公募による入選作品であったことです。これは、特定の作曲家への委嘱だけでなく、広く才能を発掘し、多様な音楽性を取り入れようとする当時の連盟の姿勢を反映したものと言えるでしょう。公募入選曲と委嘱曲が組み合わされることで、個性豊かなラインナップが実現しました。

各課題曲の詳細

[A] 吹奏楽のためのカプリチオ

早稲田大学の管弦楽団員であった吉田公彦氏が、公募に応じて作曲し入選した作品です。吉田氏の他の楽曲は一般には知られていません。この曲は、楽章区分にとらわれず、緩やかな部分と急速な部分が交互に現れる自由な形式で書かれています。楽曲の中で、特にホルンに重要な音楽的役割が与えられており、時に難しいパッセージも含まれていると作曲者自身も認めています。

[B] 序奏とアレグロ

東京藝術大学作曲科を卒業後間もない木下牧子氏が、公募によって入選を果たした作品です。木下氏の初期の作品に位置づけられます。曲の構成はその名の通り、静謐な雰囲気を持つ序奏と、躍動的なアレグロ部分から成ります。しかし、一般的な調性や拍子、リズムからは離れた、比較的複雑な響きを持っており、全体として無機質でクールな印象を与える音楽が展開されます。

[C] アイヌの輪舞

歌謡曲なども手掛けていた音楽家の早川博二氏が、公募に応募し入選した楽曲です。構成は、緩やかな部分で始まり、中間部に急速な部分を挟み、再び緩やかになる三部形式を採っています。特に中間部の速いテンポの部分は、聴く者に楽しさや軽快さを感じさせる、コミカルな要素を持っています。

[D] サンライズ・マーチ

全日本吹奏楽連盟からの委嘱を受けて、岩河三郎氏によって作曲された行進曲です。作曲者自身によると、「サンライズ」という題名は、コンクールの共催者である朝日新聞社の名前に含まれる「朝日」から着想を得たものだそうです。曲の形式は、中間部にトリオ（中間部）を持つ伝統的な三部形式のマーチです。この曲のユニークな特徴の一つとして、楽曲がシンバルソロの印象的な響きで開始される点が挙げられます。

作品への評価とコンクールでの演奏

1982年の課題曲に対しては、当時の吹奏楽関係者や専門家の間で様々な評価が聞かれました。一部からは楽曲の内容そのものに疑問を呈する声もあり、例えば専門誌『バンドジャーナル』に掲載された支部大会の審査評では、ある審査員が課題曲の一部について厳しい評価を下しています。[A]に対しては「内容が薄い」、[C]は「通俗的」、[D]は「ありふれた一般向け作品」といった酷評が記録されています。

一方で、[B]のような楽曲は、当時の日本の吹奏楽曲の中では比較的珍しい現代音楽的な傾向を持っていました。全国大会の審査員も務めた指揮者の小松一彦氏は、その著書の中で、[B]のような無機質で冷たい響きを持つ現代音楽は、当時の日本の吹奏楽界においてはまだ十分に馴染みが薄いスタイルであったと述懐しています。

後に、これらの課題曲が演奏される機会もありました。例えば、[A]「吹奏楽のためのカプリチオ」は、2008年の北陸吹奏楽コンクール富山県大会において、富山県立富山工業高等学校が演奏し、銀賞を受賞しています。このように、賛否両論はあったものの、第30回大会の課題曲は、その後の演奏史においても一部が取り上げられています。

この年の課題曲群は、公募作品の導入による多様性の追求と、それに対する当時の吹奏楽界の様々な反応を示す興味深い事例と言えるでしょう。

参考文献

小松一彦著『実践的指揮法 -管弦楽・吹奏楽の指揮を目指す人に-』音楽之友社

第30回全日本吹奏楽コンクール課題曲