第34SS義勇擲弾兵師団
第34SS義勇擲弾兵師団「ラントシュトーム・ネーダーラント」は、第二次世界大戦中に存在した武装親衛隊（Waffen-SS）のオランダ人義勇兵部隊です。当初はSS義勇擲弾兵旅団として編成されましたが、1945年2月に師団へと格上げされました。しかし、その規模は旅団規模を超えることはなく、西部戦線で戦いました。
第4SS装甲擲弾兵旅団「ネーダーラント」の成功を受け、第2のオランダ人部隊として編成されました。その中核は、オランダのファシズム政党である民族社会主義運動（NSB）のメンバーで構成され、指導者アントン・ミュッセルトも深く関与していました。
この部隊の母体となったのは、1940年にオランダ総督アルトゥル・ザイス＝インクヴァルトの承認のもと編成された「ラントヴァハト・ニーダーランデ」（祖国防衛隊オランダ）でした。ラントヴァハトはNSBの準軍事的な警察部隊として、ユダヤ人や共産主義者など、インクヴァルトやNSBにとって都合の悪い人々を摘発する役割を担いました。
1943年12月12日、武装親衛隊はオランダ人義勇連隊の編成を命じ、第1SS擲弾兵連隊「ラントヴァハト・ニーダーランデ」が誕生しました。この部隊は「ネーダーラント」旅団とは異なり、当初は祖国防衛を目的としていたため、東部戦線への投入を恐れる者は少なく、仕事や食料を求めて入隊する者もいました。また、連隊は正式なSSの一部ではなく、陸軍の制服を着用し、SSのルーン文字もありませんでした。
1943年10月16日、連隊は第1SS擲弾兵連隊「ラントシュトーム・ネーダーラント」と改名されました。「ラントシュトーム」とは国民軍や市民軍を意味します。当時、連隊の兵力は約2400名で、ミュッセルトはこの部隊を新たなオランダ軍の基礎となる存在として期待していました。しかし、オランダのSSと警察の長官ハンス・アルビン・ラウターは、NSBをSSの支配下に置くことを目論んでおり、「ネーダーラント」と「ラントシュトーム」はそのための手段とされました。
1944年9月、連合軍によるノルマンディー上陸後、ラントシュトームの2個大隊がベルギーの戦線に送られ、メルクセンとハッセルト付近のアルバート運河の防衛を命じられました。しかし、装備も経験も不足していた彼らは、自由オランダ軍の「イレーネ王女」旅団との戦闘で早々に撤退を余儀なくされました。
9月17日、モントゴメリー元帥によるマーケット・ガーデン作戦が発動され、アルンヘムのライン川にかかる橋を確保するため、空挺部隊が投入されました。当時、ラントシュトーム第3大隊はフーゲーフェーン付近で訓練と再編制を行っており、第9SS装甲師団「ホーエンシュタウフェン」の指揮下に入っていました。しかし、オランダ人義勇兵の戦闘能力に疑問を持ったホーエンシュタウフェン師団は、当初ラントシュトーム大隊の投入を躊躇しました。9月21日、ようやく第3大隊がアルンヘム-ナイメーヘン間のハイウェイ付近に投入され、数日間にわたる市街戦が繰り広げられましたが、イギリス第43師団に撃破され、9月25日には前線から撤退しました。
11月1日、ラントシュトームはSS義勇擲弾兵旅団「ラントシュトーム・ネーダーランド」として再編成されました。3個大隊は第83SS義勇擲弾兵連隊に、SS警備大隊「ノルトヴェスト」は第84SS義勇擲弾兵連隊に編入され、人員の多くはNSBの青年組織「ユートシュトーム」のメンバーで構成されました。再編成後、ラントシュトームはヴァール川とライン川付近で防衛任務に就きました。
1945年2月10日、ラントシュトームは第34SS義勇擲弾兵師団「ラントシュトーム・ネーダーランド」と改称されました。しかし、その実質的な戦力は二線級の旅団規模に留まりました。師団は第7降下猟兵連隊に代わり、ベツヴェとレーネンの間のライン川流域の防衛を命じられました。人工的な氾濫を起こして進撃を阻みつつ、師団は王立オランダ「イレーネ王女」旅団やイギリス第48師団、カナダ軍の混成部隊と対峙しました。しかし、兵士の士気は低く、特に同胞で構成される王立オランダ軍との戦闘をためらう者が多かったと言われています。
それでも師団は善戦し、ゼッテン付近で防衛線を維持しましたが、戦闘の継続は指揮系統を混乱させ、ドイツ人指揮官を暗殺して連合軍に降伏するという計画まで持ち上がりました。しかし、計画は事前に露見し、責任者は軍法会議で処刑されました。終戦が近づくにつれ、部隊の士気と規律は低下し、市民への略奪や暴行が横行するようになり、特に第84SS義勇擲弾兵連隊は虐殺に関与したとされています。師団は最終的に1945年5月5日、オスタービーク近郊で降伏しました。
一部の兵士は降伏後もヴィーネンダールの村でオランダのレジスタンス部隊と戦闘を続け、5月9日にイギリス第49師団に降伏しました。内通者の情報により、生存者の多くは収監され、一部は報復として処刑されました。
第34SS義勇擲弾兵師団「ラントシュトーム・ネーダーラント」は、その存在期間を通じて、様々な問題を抱えながらも、ナチス・ドイツのために戦い抜いた部隊でした。
Rolf Michaelis: Die Grenadier-Divisionen der Waffen-SS. Teil 3. Michaelis-Verlag, Erlangen 1995, S. 6 - 56, ISBN 3-930849-05-4.
Rolf Michaelis: Die 32. SS-Freiwilligen-Grenadier-Division. 2., revidierte Auflage. Michaelis, Berlin 2006, ISBN 978-3-930849-39-0.
AXIS HISTORY at Axis History Factbook.
Nafziger, George F., The German Order of Battle: Waffen SS and Other Units in World War II,Greenhill Books/Lionel Leventhal, United Kingdom ,ISBN 1853673935
設立と経緯
第4SS装甲擲弾兵旅団「ネーダーラント」の成功を受け、第2のオランダ人部隊として編成されました。その中核は、オランダのファシズム政党である民族社会主義運動（NSB）のメンバーで構成され、指導者アントン・ミュッセルトも深く関与していました。
この部隊の母体となったのは、1940年にオランダ総督アルトゥル・ザイス＝インクヴァルトの承認のもと編成された「ラントヴァハト・ニーダーランデ」（祖国防衛隊オランダ）でした。ラントヴァハトはNSBの準軍事的な警察部隊として、ユダヤ人や共産主義者など、インクヴァルトやNSBにとって都合の悪い人々を摘発する役割を担いました。
1943年12月12日、武装親衛隊はオランダ人義勇連隊の編成を命じ、第1SS擲弾兵連隊「ラントヴァハト・ニーダーランデ」が誕生しました。この部隊は「ネーダーラント」旅団とは異なり、当初は祖国防衛を目的としていたため、東部戦線への投入を恐れる者は少なく、仕事や食料を求めて入隊する者もいました。また、連隊は正式なSSの一部ではなく、陸軍の制服を着用し、SSのルーン文字もありませんでした。
1943年10月16日、連隊は第1SS擲弾兵連隊「ラントシュトーム・ネーダーラント」と改名されました。「ラントシュトーム」とは国民軍や市民軍を意味します。当時、連隊の兵力は約2400名で、ミュッセルトはこの部隊を新たなオランダ軍の基礎となる存在として期待していました。しかし、オランダのSSと警察の長官ハンス・アルビン・ラウターは、NSBをSSの支配下に置くことを目論んでおり、「ネーダーラント」と「ラントシュトーム」はそのための手段とされました。
オランダ・ベルギーでの戦闘（マーケット・ガーデン作戦）
1944年9月、連合軍によるノルマンディー上陸後、ラントシュトームの2個大隊がベルギーの戦線に送られ、メルクセンとハッセルト付近のアルバート運河の防衛を命じられました。しかし、装備も経験も不足していた彼らは、自由オランダ軍の「イレーネ王女」旅団との戦闘で早々に撤退を余儀なくされました。
9月17日、モントゴメリー元帥によるマーケット・ガーデン作戦が発動され、アルンヘムのライン川にかかる橋を確保するため、空挺部隊が投入されました。当時、ラントシュトーム第3大隊はフーゲーフェーン付近で訓練と再編制を行っており、第9SS装甲師団「ホーエンシュタウフェン」の指揮下に入っていました。しかし、オランダ人義勇兵の戦闘能力に疑問を持ったホーエンシュタウフェン師団は、当初ラントシュトーム大隊の投入を躊躇しました。9月21日、ようやく第3大隊がアルンヘム-ナイメーヘン間のハイウェイ付近に投入され、数日間にわたる市街戦が繰り広げられましたが、イギリス第43師団に撃破され、9月25日には前線から撤退しました。
旅団から師団へ、そして終焉
11月1日、ラントシュトームはSS義勇擲弾兵旅団「ラントシュトーム・ネーダーランド」として再編成されました。3個大隊は第83SS義勇擲弾兵連隊に、SS警備大隊「ノルトヴェスト」は第84SS義勇擲弾兵連隊に編入され、人員の多くはNSBの青年組織「ユートシュトーム」のメンバーで構成されました。再編成後、ラントシュトームはヴァール川とライン川付近で防衛任務に就きました。
1945年2月10日、ラントシュトームは第34SS義勇擲弾兵師団「ラントシュトーム・ネーダーランド」と改称されました。しかし、その実質的な戦力は二線級の旅団規模に留まりました。師団は第7降下猟兵連隊に代わり、ベツヴェとレーネンの間のライン川流域の防衛を命じられました。人工的な氾濫を起こして進撃を阻みつつ、師団は王立オランダ「イレーネ王女」旅団やイギリス第48師団、カナダ軍の混成部隊と対峙しました。しかし、兵士の士気は低く、特に同胞で構成される王立オランダ軍との戦闘をためらう者が多かったと言われています。
それでも師団は善戦し、ゼッテン付近で防衛線を維持しましたが、戦闘の継続は指揮系統を混乱させ、ドイツ人指揮官を暗殺して連合軍に降伏するという計画まで持ち上がりました。しかし、計画は事前に露見し、責任者は軍法会議で処刑されました。終戦が近づくにつれ、部隊の士気と規律は低下し、市民への略奪や暴行が横行するようになり、特に第84SS義勇擲弾兵連隊は虐殺に関与したとされています。師団は最終的に1945年5月5日、オスタービーク近郊で降伏しました。
一部の兵士は降伏後もヴィーネンダールの村でオランダのレジスタンス部隊と戦闘を続け、5月9日にイギリス第49師団に降伏しました。内通者の情報により、生存者の多くは収監され、一部は報復として処刑されました。
第34SS義勇擲弾兵師団「ラントシュトーム・ネーダーラント」は、その存在期間を通じて、様々な問題を抱えながらも、ナチス・ドイツのために戦い抜いた部隊でした。
参考文献
Rolf Michaelis: Die Grenadier-Divisionen der Waffen-SS. Teil 3. Michaelis-Verlag, Erlangen 1995, S. 6 - 56, ISBN 3-930849-05-4.
Rolf Michaelis: Die 32. SS-Freiwilligen-Grenadier-Division. 2., revidierte Auflage. Michaelis, Berlin 2006, ISBN 978-3-930849-39-0.
AXIS HISTORY at Axis History Factbook.
Nafziger, George F., The German Order of Battle: Waffen SS and Other Units in World War II,Greenhill Books/Lionel Leventhal, United Kingdom ,ISBN 1853673935
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