笹沢用水

笹沢用水（ささざわようすい）

笹沢用水は、長野県佐久地域に位置する重要な用水路であり、その歴史は江戸時代にまで遡ります。軽井沢町の笹沢と谷地沢を源流とし、御代田町を経由して佐久市岩村田へと流れるこの用水路は、地域の人々の生活と農業を支えてきました。

地理

笹沢用水は、北佐久郡軽井沢町の笹沢と谷地沢を水源としています。これらの沢から流れ出た水は、御代田町を通り、佐久市岩村田へと至ります。その過程で、柳沢、おひて場、かじか沢、五升五合用水（大久保用水）、穴沢用水（夜間のみ）といった他の水路からの水も取り込み、さらにいくつかの支流に分かれながら、小田井、前田原、蟹沢、牛首、岩村田といった地域を潤します。特筆すべきは、水源である笹沢と谷地沢が、現在では上水道用水としても利用されている点です。

江戸時代には、笹沢用水は農業用水としての役割だけでなく、生活用水としても利用されていました。当時の様子を伝える貴重な資料として、「笹沢用水絵図（安川源内氏蔵）」が現存しています。また、文政11年（1828年）の関係町村の申し合わせ書には、各村の用水かかり高（石高）が記録されており、小田井村15石、前田原村17石、岩村田470石とされています。

笹沢用水は、笹沢堰、笹沢堰用水、笹沢谷地沢用水、谷地沢用水、蟹沢用水、蟹沢堰用水など、さまざまな名前で呼ばれてきました。文政11年の御裁許には、「小田井・前田原両村にて笹沢、岩村田町にて蟹沢と申す」という記述があり、地域によって呼び名が異なっていたことがわかります。その後、1875年（明治8年）に「笹沢谷地沢用水」と改称されたとされています。

歴史

江戸時代の水論

笹沢用水を巡っては、江戸時代に水論が起こっています。文政2年（1819年）春から文政11年（1828年）秋にかけて、前田原村の新田開発により水不足が生じるとした岩村田村が、前田原村を相手に訴訟を起こしました。一時的に両村間で和解が成立したものの、小田井村が蚊帳の外に置かれたことを不服として訴訟を起こし、事態は複雑化しました。

昭和初期の水論

明治維新後も、笹沢用水の使用を巡る争いは絶えませんでした。特に、御代田村と岩村田町の間では、水利権を巡る対立が繰り返されました。昭和に入り、岩村田町が用水を「町の単独用水」と誤認し、多くの問題が発生しました。1928年（昭和3年）、用水の共同使用権を主張する御代田村が岩村田町を提訴しました。1931年（昭和6年）2月7日、裁判所の仲裁により和解が成立し、和解契約書の第一条には、「谷地沢用水は岩村田町大字岩村田及御代田村共に従来通りその使用権を有するものとす」と明記されました。

上水道用水へ

戦後、岩村田町と御代田村では、生活用水の水質悪化が深刻化しました。衛生面からも上水道の整備が急務となり、ため池（仙禄湖）の建設や御影用水（千ヶ滝用水）の改修により灌漑用水に余裕が生まれたため、その水源が上水道用水として利用されるようになりました。

現在の笹沢水源は、軽井沢町追分地籍、浅間山国有林内に位置し、佐久水道企業団が佐久森林管理センターから借用しています。この水源は、上水道北部区域、浅麓谷地沢水系に属し、地下水の湧出地盤に集水暗渠を敷設し、湧水をポンプで御代田浄水場に送っています。雨水などの地表水が混入しないように工夫されています。1日あたりの取水量は400立方メートルです。佐久水道企業団は、クリプトスポリジウムや硬度の高さ（硬水）への対策を検討しています。

また、軽井沢町と御代田町の境界に位置する笹沢には、笹沢12号水源があります。これは1981年（昭和56年）頃に掘られた深井戸で、1日あたりの取水量は990立方メートルです。この水源も、佐久水道企業団によって上水道北部区域、浅麓谷地沢水系の水源として活用されています。

脚注

参考文献

『佐久水道企業団 地域水道ビジョン H21年度改訂版』佐久水道企業団、2010年。
御代田村誌編纂委員会編纂『御代田村誌 全 歴史篇 現代篇』御代田村誌編纂委員会、1958年。
御代田町誌編纂委員会編纂『御代田町誌 地誌編』御代田町誌刊行会、2000年。

関連項目

信濃国 - 佐久郡
湯川 (北佐久郡) - 御影用水
水論

外部リンク
* 佐久水道企業団

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