箜篌

箜篌（くご）：古代東アジアの撥弦楽器

箜篌は、古代東アジアで用いられたハープや箏に似た撥弦楽器です。その歴史は古く、中国、朝鮮、日本で様々な形で存在しました。楽器としての役割のほか、仏教建築を飾る仕掛けとしても用いられた点が特徴的です。

中国における箜篌

中国では、異なる起源を持つ複数の楽器が「箜篌」と呼ばれていました。

臥箜篌（ふせくご）: 琴のように寝かせて演奏する箜篌で、最も古い記録は司馬遷の『史記』に見られます。
竪箜篌（たてくご）: 漢代に西域から伝わったハープに似た楽器で、霊帝が好んだとされています。
鳳首箜篌（ほうしゅくご）: 唐代にインド・ビルマから伝来し、先端に鳳首の装飾が施された箜篌です。燕楽の天竺楽で使用されました。

明代以降、中国では箜篌は衰退しました。

朝鮮における箜篌

朝鮮半島と箜篌は深い関係があり、楽府題の一つである「箜篌引」は朝鮮で生まれたとされています。しかし、中国と同様に、現在では朝鮮半島でも箜篌は使用されていません。現代に入り、韓国の作曲家尹伊桑が箜篌に触発された楽曲を作曲しています。

日本における箜篌

日本へは、平安時代に百済を経由して竪箜篌が、高句麗を経由して臥箜篌が伝来しました。竪箜篌は特に百済琴（くだらごと）とも呼ばれました。奈良の正倉院には、竪箜篌の残欠が2張分現存しています。

809年には雅楽寮に箜篌担当の楽師が置かれましたが、840年代の楽制改革によって他の大陸系楽器と共に衰退しました。

20世紀以降、壁画などを参考に復元が試みられ、演奏可能な箜篌が作られるようになりました。ただし、現代において復元楽器で演奏される楽曲は、箜篌の伝承曲ではなく、西洋音楽の編曲や現代音楽が中心です。

仏教建築における箜篌

仏教経典には、浄土に自ずから鳴る楽器が登場します。これはインドのヴィーナーを指し、漢訳では箜篌が当てられました。8世紀の中国では、風箏と呼ばれるウインド・ハープが寺院の屋根に飾られ、日本にも伝わって「箜篌」と呼ばれました。奈良の東大寺や京都の法観寺など、各地の仏塔に箜篌が設置されていた記録が残っています。岡寺三重塔には和箏型の箜篌が再現されています。


参考文献
蒲生美津子「箜篌」『国史大辞典 4』 吉川弘文館、1984年。ISBN 978-4-642-00504-3。
三谷陽子「箜篌」『日本史大事典 2』 平凡社、1993年。ISBN 978-4-582-13102-4。
中安真理『箜篌の研究：東アジアの寺院荘厳と弦楽器』思文閣出版、2016年。ISBN 978-4-7842-1849-3。

外部リンク
箜篌について（斎藤葉）
「箜篌」（くご）絲の音色 - ウェイバックマシン
* 復元された箜篌の音源

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