籠の聖母 (コレッジョ)

『籠の聖母』（伊: Madonna della Cesta, 英: The Madonna of the Basket）は、ルネサンス期のイタリア人画家コレッジョが1524年頃に制作した油彩画です。その名の通り、絵画の中に籠が描かれていることが特徴です。コレッジョ特有の優しく穏やかな聖母子像が描かれており、画家の芸術が成熟を見せる時期の作品として知られています。ジョルジョ・ヴァザーリによって早くも言及されるなど、当時から注目を集めていました。小品ながらも保存状態はきわめて良好で、レオナルド・ダ・ヴィンチをはじめとする様々な巨匠の影響がうかがえます。

作品の特徴

コレッジョは、聖書の登場人物を親しみやすく愛情豊かな日常生活の中に描いています。聖母マリアは、伝統的な青いローブではなく、薔薇色の服を身に着け、大きな木の下に座っています。彼女は幼いキリストを膝の上に抱き、編み終えたばかりの灰色がかった青色の衣服を試しに着せようとしています。しかし、幼いキリストは身をよじり、その右手は祝福を授ける身振りをしながら両腕を広げています。この姿は、ゴルゴダの丘で磔刑に処される未来を暗示しているかのようです。

聖母マリアの横には、仕事道具である黒い鉄の鋏、羊毛の毛糸玉、そしてそれらを収めた籠が置かれています。彼女が編んだ衣服は、キリストとともに成長したという伝説や、『ヨハネの福音書』19章23-24で語られている「縫い目のない衣」を想起させます。ヨセフは背景の少し離れた場所に描かれており、鉋を持ち、大工としての仕事に励んでいます。彼らの家は古代遺跡のそばに建てられており、これは古代異教の残骸から新しい信仰が生まれたことを象徴しています。ヨセフの働く姿と遺跡の図像には、アルブレヒト・デューラーの木版画との類似性が指摘されており、コレッジョのドイツ美術への関心が窺えます。

本作品の制作時期は、コレッジョがサン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタ聖堂に関する作品を制作していた時期と重なります。同時期に制作された『キリスト哀悼』とは対照的に、聖家族の穏やかな日常を描いており、感情的に開かれた作風は、後のバロック美術を予感させます。レオナルド・ダ・ヴィンチに学んだスフマートによる輪郭をぼかす技法や、ティツィアーノ・ヴェチェッリオらヴェネツィア派の影響が見られます。一方で、左上から右下に落ちる斜めの構図は斬新であり、聖母のねじれたポーズやキリストの脚に見られる短縮法は、コレッジョの熟練した技術を示しています。

来歴

ヴァザーリの記述によれば、本作品はパルマの貴族カヴァリエール・フランチェスコ・バイアルドのコレクションでした。彼は詩人アンドレアの息子で、コレッジョの友人であり、後にパルミジャニーノのパトロンとなりました。その後、絵画はスペインに移り、マドリードのアルカサルの1666年の目録に記載されています。半島戦争中にイギリス人画家のジョージ・オーガスタス・ウォリスに売却され、ベルギーの画商クリスティアン・ヨハネス・ニーヴェンホイスの手に渡りました。1825年、ナショナル・ギャラリーがニーヴェンホイスから3,800ポンドで購入しました。この購入によって、数少ないコレッジョの作品が初めてコレクションに加えられました。

影響

ヴァザーリは本作品を「幼児のキリストにシャツを着せる聖母」と記録しています。彼の言及のおかげで、枢機卿フェデリコ・ボッロメオが複製を求め、画家ジローラモ・マルケジーニがミニアチュールの複製を制作しました。また、ローマの女性版画家ディアナ・スクルトリも1577年にエングレービングによるコピーを制作しています。

現在、作品はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されていますが、展示はされていません。

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