粉河寺縁起絵巻

粉河寺縁起絵巻：観世音菩薩の霊験と粉河寺の創建

国宝に指定されている『粉河寺縁起絵巻』は、和歌山県にある粉河寺の縁起を描いた絵巻物です。紙本著色の一巻で、全長1984.2cmにも及ぶ大作です。推定制作時期は12世紀後半とされ、天正年間の豊臣秀吉による根来寺焼き討ちで被災したため、巻頭部分と全体に焼損が見られます。作者は不明です。現在、粉河寺の所有物ですが、京都国立博物館に寄託されています。

絵巻の内容：猟師と長者の物語

絵巻は、仮名交じり文の詞書四段と絵五段から構成され、大きく分けて二つの物語から成ります。前半は粉河寺の創建、後半は河内国の長者一族にまつわる観世音菩薩の霊験譚です。

前半では、紀伊国那賀郡の猟師、大伴孔子古が、山中での狩猟中に不思議な光を目撃し、そこに庵を結び、仏像の安置を発願する様子が描かれています。その後、一人の童子が現れ、七日間で仏像を造り、完成後、姿を消します。庵内には等身の千手観音が安置されており、この出来事が粉河寺の創建の起源とされています。宝亀元年（770年）の創建とする説も存在します。

後半は、河内国讃良郡の長者の一人娘が、悪臭を放つ皮膚病に苦しむ物語です。あらゆる治療法を試しても改善が見られない中、一人の童子が現れ、七日間の祈祷を行い、娘の病を癒します。童子は報酬を拒否し、娘が幼い頃から大切にしていた小刀と紅の袴のみを受け取ると姿を消します。後日、長者一家は童子の言葉に従い、紀伊国那賀郡粉河を訪れ、白檀の千手観音が安置された庵を発見します。観音の手には、童子に与えた小刀と袴が握られていました。この出来事をきっかけに、長者一家は出家し、猟師の一家は粉河寺の別当となりました。

詞書と文献の差異

絵巻の詞書と『粉河寺縁起』などの他の文献には、内容に若干の相違が見られます。例えば、長者の住む場所や、前半の物語の詳細などです。第一段の詞書は焼失しているため、その内容は他の文献からの推測に基づいています。また、長者一族は現在の東大阪市の名士である塩川家とされ、政治家の塩川正十郎氏は末裔にあたると言われています。粉河寺の山門には、塩川正三氏（塩川正十郎氏の父）の寄進を記した石碑が残っています。

各段の内容

絵巻は、大きく分けて以下の五つの段から構成されています。それぞれの段は、粉河寺の創建と観世音菩薩の霊験譚を、異なる視点から描いています。

第一段: 紀伊国那賀郡に位置する粉河寺の聖地としての歴史と、大伴孔子古による草庵建立。
第二段: 孔子古による草庵への参拝と、等身の千手観音像の出現。
第三段: 河内国讃良郡の長者の一人娘の重病と、童子による祈祷の開始。
第四段: 七日間の祈祷による娘の奇跡的な快癒と、童子の消失。
* 第五段: 長者一家による粉河への旅と、千手観音像の発見、そして出家。

モニュメントと参考文献

粉河駅と粉河寺の間には、『粉河寺縁起絵巻』のモニュメントが設置されており、絵巻の場面を鑑賞することができます。絵巻に関する研究書も数多く出版されています。また、京都国立博物館では、絵巻のデジタル画像を閲覧することができます。

『粉河寺縁起絵巻』は、観世音菩薩の霊験と粉河寺の創建を鮮やかに描いた、日本の絵巻物の傑作です。その歴史的・芸術的価値は高く評価され、現代においても多くの人の心を惹きつけています。

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