紀伊国造

紀伊国造：悠久の歴史を刻む紀伊の氏族

紀伊国造（きのくにのみやつこ）は、現在の和歌山県にあたる紀伊国を支配した古代の豪族です。その歴史は古く、神武天皇の時代まで遡ると伝えられています。代々、紀伊国の国造職を継承すると同時に、日前神宮と國懸神宮という重要な神社の祭祀を司ってきました。律令制によって国造制度が廃止された後も、紀伊国造家は両神宮の宮司として「国造」の称号を受け継ぎ、その歴史と伝統を守り続けてきました。

系譜と起源：神話の時代から現代へ

『先代旧事本紀』によると、紀伊国造の祖先は神武天皇の五世孫にあたる天道根命とされています。神武天皇による畿内平定後、紀伊の国造に封じられたと記されています。しかし、実際に紀伊国造として任命された最初の記録は、6世紀の紀忍勝（日本書紀敏達天皇12年）と考えられています。

紀伊国造家は紀氏（きし）という氏族に属しており、代々、君という姓を名乗っていました。庚午年籍では紀直に、承和2年には紀宿禰と改姓しています。紀伊国造家の歴史は、神話時代を含めると2000年以上にも及び、今日まで日前神宮と國懸神宮の神々に仕え続けている、由緒ある家系です。

天皇家を別にすれば、これほど長い歴史を持つ家系は非常に珍しく、出雲国造家、阿蘇家、宇佐国造家、隠岐国造家、海部家、千秋家、津守家、諏訪家などと同列に挙げられるほどです。特に出雲国造家と同様に、紀伊国造の就任には朝廷からの承認が必要とされていました。興味深いことに、紀伊国造家の継承においては、2度、女系による継承が行われています。

権力と試練：戦国時代から近現代へ

平安時代中期と江戸時代後期には、家系の断絶の危機に見舞われましたが、いずれも女系による継承によって危機を乗り越えました。64代俊連の頃から、神領の周辺に城を築き、外敵からの防衛を強化するようになりました。紀伊国造家は神官としての役割に加え、地方大名に匹敵するほどの領地を有しており、周辺勢力からの侵略の脅威に常にさらされていました。

戦国時代には、雑賀衆による攻撃を受けることもありました。豊臣秀吉の紀州征伐の際には、日前神宮と國懸神宮の社殿が破壊され、紀伊国造家は神領を没収されました。しかし、大納言秀長の尽力により、仮殿が建てられ、後に紀州藩主徳川頼宣によって社殿は旧社地に復旧されました。頼宣は、68代忠光に社領40石を与えました。

明治5年には華族に列し、明治17年には男爵位を授けられました。俊秀は貴族院の男爵議員を務め、公正会に所属しました。紀伊国造家の歴史は、神道と政治、そして権力と試練が複雑に絡み合った、日本古代史における重要な一章と言えるでしょう。

系図と参考文献

紀伊国造家の系図は、『紀伊国造系図』（塙保己一編『続群書類従』）などに記されています。より詳細な情報については、歴史書や系譜資料などを参照ください。

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