紀伝体

紀伝体とは

紀伝体は、東アジアの歴史書において広く用いられた記述形式の一つです。特に中国の正史である二十四史は、すべてこの紀伝体で編纂されています。この形式は、単に出来事を年代順に記述するのではなく、皇帝や重要な人物、出来事を独立した項目として記述することで、読者が特定の人物や事柄について深く理解できるよう工夫されています。

紀伝体の構成

紀伝体は、主に以下の項目で構成されています。

本紀（ほんぎ）：
皇帝や王などの支配者に関する記述です。年ごとの出来事が記録され、支配者の視点から見た歴史が描かれます。この項目では、支配者がいかに立派な人物であり、天命を受けているかが語られます。神話や瑞祥、予言などが語られることもあります。
本紀は、必ずしも正統の天子のみを扱うわけではなく、実質的に天下を支配した者も含まれます。例えば、『史記』の「項羽本紀」が挙げられます。
また、生前に皇帝を名乗っていなくても、子孫が皇帝になった場合に帝号を贈られた人物も本紀に記載されることがあります。

世家（せいか）：
諸侯に関する記述で、皇帝を中心とする世界観において、惑星のように皇帝の周りを回る存在として描かれます。諸侯だけでなく、時代を超えて祭祀を受けるような人物も対象となる場合があります。

列伝（れつでん）：
個々の人物の伝記です。様々な立場の人物が取り上げられ、義士、大臣、将軍、学者、文人、大商人など、多種多様な人物の生涯が描かれます。また、同性愛者や任侠の徒、冷酷な役人などの記述も含まれることがあります。
列伝の冒頭は、皇帝になれなかった初代皇帝のライバルたちを記載することが多いです。
複数の人物をまとめて記述する「合伝」や、同種の人物をまとめた「雑伝」があります。後世の歴史書では、官僚の履歴書のような内容になる傾向があります。
反乱を起こした人物は「叛臣伝」として列伝の末尾に記されます。また、周辺の異民族に関する記述も列伝に含まれることがあります。

志（し）：
天文、地理、礼楽、制度など、分野別の歴史を記述したものです。歴史書によって「書」、「典」、「略」、「考」など、様々な名称で呼ばれることがあります。

表（ひょう）：
年表や月表など、各種の表形式で歴史的な出来事を整理したものです。

載記（さいき）：
各地に割拠した自立勢力の記述です。世家と似ていますが、世家が正統な諸侯の出自であるのに対し、載記は反乱勢力の出自である点が異なります。特に五胡十六国の記述に用いられました。

修史詔（しゅうし しょう）:
歴史書の編纂を命じた詔勅の写しです。

四夷（しい）:
列伝から異民族出身の人物に関する記述を独立させたものです。

国語解（こくご かい）:
異民族王朝において、固有の民族語の解説を添えたものです。

紀伝体の特徴

紀伝体の特徴は、ある人物や国に関する情報がまとまって記述されるため、その人物や国について理解しやすい点です。ただし、同じ事柄が複数の箇所で重複して記述されることもあります。

一方、編年体は出来事を年代順に記述するため、歴史全体の流れを把握しやすいという利点があります。中国では、当初は編年体が主流でしたが、『史記』の登場以降、紀伝体が主流となりました。

紀伝体と編年体の他にも、紀事本末体や国史体といった記述形式があります。

紀事本末体：事件の筋がわかりやすいように、ストーリー展開を追ってまとめ直したものです。

* 国史体：編年体を基本としつつ、人物の死亡記事があった場合にその人物の列伝を付載する、日本独自の形式です。

紀伝体の意義

紀伝体は、歴史を多角的に捉え、人物や出来事を深く理解するのに適した記述形式です。中国の正史をはじめ、東アジアの多くの歴史書で採用されており、その影響は今日まで及んでいます。

紀伝体によって、私たちは過去の歴史をより深く知ることができるのです。また、日本の大日本史のように、中国の史書だけでなく、独自の歴史を紀伝体で記す試みも行われてきました。

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