三遊亭圓馬

三遊亭圓馬

三遊亭圓馬（さんゆうてい えんば）は、落語家の名跡です。現在、五代目がこの名を継いでいます。

初代以前

花枝房圓馬という人物が初代圓馬を名乗る以前に存在しました。生没年は不詳で、本名も不明です。初代林屋正蔵の門下で春好（または新孝）と名乗り、後に初代三遊亭圓生の門下で花枝房圓馬となりました。その後、白毛舎猿馬とも名乗りました。坊主頭であったため、噺の坊主をもじって花枝房（噺房）の亭号としたと考えられています。大道具入りの噺、怪談、よしこの節、トッチリトン節の新作音曲など幅広くこなし、1833年には名古屋、その後京都、大坂でも口演しました。晩年には桜房円玉斎と改名しています。没年は不詳で、弘化から嘉永の代わる頃に亡くなったとされています。

初代 三遊亭圓馬

初代 三遊亭 圓馬（1828年 - 1880年10月11日）は、本名を野末亀吉といいました。初代三遊亭圓朝門下の「圓朝四天王」の一人とされていますが、圓朝の門下になる以前の経歴はあまり知られていません。一説には、3代目翁屋さん馬（後の4代目三笑亭可楽）の門人に翁家らん馬という落語家がおり、その門下で天狗連で狂言亭市馬と名乗っていた人物がこの圓馬であるとされています。狂言亭市馬は後に月亭花生と改名し、芝居噺を得意としていたといいます。玄人としては、2代目三遊亭圓生門下で圓馬と最初から名乗りました。三遊亭圓朝の真打昇進に伴い、圓朝の父である橘屋圓太郎の依頼などで、圓朝一門を補強するために12歳も年下の圓朝門下に加わったとされています。圓朝門下になってからは主に素噺を演じました。晩年は西両国の駒止に住んでいたことから、「駒止の圓馬」と呼ばれていました。1880年に53歳で亡くなりました。

初代の門下

2代目三遊亭圓橘
三遊亭市馬
三遊亭菊馬
三遊亭市馬
三遊亭圓平
柳亭左好

二代目 三遊亭圓馬

二代目 三遊亭 圓馬（1854年 - 1918年12月18日）は、本名を竹沢釜太郎といいました。父は水戸藩士の竹沢源兵衛で、後に武士の身分を捨て町人となり、水戸下屋敷御門前で御用蕎麦屋を営んでいました。釜太郎は11歳の時に日本橋照降町の袋物屋に丁稚奉公していた際、主人のお供で寄席に行ったのがきっかけで落語に夢中になりました。初代柳亭左龍の弟子になり左伝次と名乗りました。その後、圓朝の門下で圓治、圓弥を経て圓雀となり、1884年に2代目圓馬を襲名しました。圓朝引退後の1891年に、師の意向に同調する形で大阪に移り、以降は実弟の2代目橘家圓三郎（後の初代橘ノ圓）と共に上方を本拠として活躍しました。桂派に属し、居住地から「空堀の師匠」と呼ばれていました。大阪でも東京落語を演じ続けました。圓朝の年忌の時には上京しましたが、寄席に出演することはほとんどありませんでした。しかし、実弟の初代橘ノ圓が率いる旅回り専門の圓頂派が東京に出向いた際には同行して高座に上がりました。1918年5月に橋本川柳（3代目圓馬）に名跡を譲り、三遊亭圓翁と改名しましたが、同年12月に65歳で亡くなりました。辞世の句は「波ら波らになって音なし古扇」。墓地は大阪四天王寺（壽法寺）にあります。得意ネタは『五人廻し』『松曳』『子は鎹』『田の久』『安中草三郎』などで、『迷子札』『人面草』など自作落語もいくつか作っています。妻のおさんは笑福亭鶴八の娘で、2代目桂文三の妻でしたが、2代目文三の死後、妻となりました。おさんは囃子方の名人でした。実の姉のふじは初代三遊亭圓左の妻です。

二代目の門下

三遊亭小圓馬
四代目橘家圓太郎
三遊亭市馬
三遊亭花遊
三遊亭小圓馬
三遊亭遊馬

三代目 三遊亭圓馬

三代目 三遊亭 圓馬（1882年11月3日 - 1945年1月13日）は、大阪市北区大工町出身で、本名を橋本 卯三郎といいました。出囃子は『圓馬囃子』です。父は上方落語家・二代目月亭文都の門下の月亭都勇でした。1888年7月の7歳の時に、月亭小勇の名で京都の新京極笑福亭の高座に上がりました。後に二代目笑福亭木鶴の門下に転じ、小鶴を経て都木松を名乗りましたが、1893年12月には巡業中であった東京の初代立花家橘之助（女流浮世節師）の門下に転じ、立花家橘松を名乗りました。1904年9月には機関兵として日露戦争に従軍し、地方巡業などでしばらく東京を離れましたが、1908年の末頃に上京して初代三遊亭圓左に師事し、立花家左近と改名しました。第1次落語研究会の準幹部に抜擢され、東京のネタを演じる他、上方のネタを東京向けに演じたり、新作に挑んだりと幅広く活躍しました。1909年12月、真打に昇進し、七代目朝寝坊むらくを襲名しました。橘之助と四代目橘家圓蔵の盛り立てもあって順調な活躍を続けていましたが、次第に圓蔵と不和になり、1913年には圓蔵を殴打してしまう事件を起こしました。この事件で橘之助から破門されたむらくは東京を離れ、1916年6月、大阪に復帰し、浪速三友派に所属して初代橋本川柳を名乗りました。大正時代には神田で「橋本亭」という寄席を経営していました。1928年、紅梅亭の席亭や2代目圓馬の推薦により名跡を譲り受け、3代目圓馬を襲名しました。同年5月には、東京の有楽座でも披露口演を行ないました。生粋の上方噺家でありながら、一流の江戸噺家でもあった希有な人で、大阪弁、京都弁、江戸弁を巧みに使い分けることができました。また、上方落語の多くを東京落語に移植した功績があります。立花家左近時代には、前座時代の八代目桂文楽を預かって猛特訓をしました。文楽は圓馬に傾倒し、「舐めろと言われれば、師匠のゲロでも舐めたでしょう」とまで言っています。また、文楽が大阪で仕事があった際には必ず天下茶屋に在った圓馬宅に立ち寄り、差し向かいで稽古を付けてもらっていたといいます。得意ネタは『鹿政談』『愛宕山』『景清』『切られ与三』『ざんぎりお瀧』『淀五郎』『鰍沢』『姫かたり』『九州吹戻し』『文七元結』『中村仲蔵』『富久』『素人鰻』などです。晩年は吉本興業に所属し、看板落語家として活躍しました。演目は東京落語が多かったとされています。他にも三味線の素養があり、自身の出囃子は天神祭のお囃子を参考に自ら作曲しました。晩年は上方落語の衰退により高座を去り、中風を患うなど不遇でした。1945年に65歳で亡くなりました。先代同様に墓地は大阪四天王寺（壽法寺）にあります。

三代目の門下

四代目三遊亭圓馬
五代目立川ぜん馬
式亭三馬
九代目朝寝坊むらく
朝寝坊志らく
正岡容

四代目 三遊亭圓馬

四代目 三遊亭 圓馬（1899年1月18日 - 1984年11月16日）は、東京都小石川区出身で、本名を森田 彦太郎といいました。生前は落語芸術協会に所属し、晩年は同協会の相談役を務めました。出囃子は『圓馬ばやし』です。父は落語家あがりで奇術や踊りなどを演じた月の家満月で、弟は大阪の曲芸師・森幸児・静児の森幸児です。7歳の時に父と共に大阪に移り住みました。1906年1月に父三遊亭左圓太門下に入門し、三遊亭圓童を名乗り初舞台を踏みました。その後、父が3代目桂文三の門下になり三太郎を名乗ったため、自身も文三の元で「小三」となりました。1917年に二ツ目に昇進し、二代目三遊亭圓馬の門下で三遊亭とん馬と改名しました。1923年、二代目三遊亭圓馬が圓馬の名跡を三代目三遊亭圓馬に譲った際、三代目三遊亭圓馬の預かりで移籍し、4月に真打格に昇進して「3代目三遊亭小圓馬」を襲名しました。以降、吉本興業の若手落語家として売り出しました。この頃は女性に人気があり、サイン帳とサインペンを持った女性が自宅に押しかけていたといいます。洋服で高座に上がるなど新しいことにも挑戦しました。大阪にいても師匠同様、東京落語を演じました。師匠圓馬の病気の悪化もあり、1943年に師匠の勧めで吉本を辞めて東京へ移籍し修行を始めました。1947年4月、「四代目三遊亭圓馬」を襲名し、上野鈴本演芸場で襲名披露をしました。以降、芸術協会の重鎮として活躍しました。落語は上方ネタ、東京ネタなど多く、父親同様に余芸の踊り、ほかに二人羽織りも得意でした。1984年11月16日、東京都中野区の小原病院で老衰のため85歳で亡くなりました。墓所は台東区東淵寺にあります。

四代目の芸歴

1906年1月 - 三遊亭左圓太に入門、「圓童」を名乗る。
三代目桂文三門下へ移籍、「小三」を名乗る。
1917年 - 二ツ目昇進。二代目三遊亭圓馬の門下で「とん馬」と改名。
1923年
三代目三遊亭圓馬の預かり弟子になる。
4月∶真打昇進、「三代目三遊亭小圓馬」を襲名。
1947年4月 - 「四代目三遊亭圓馬」を襲名。
1984年11月 - 死去。

四代目の得意ネタ

『磯の鮑』
『淀五郎』
『宮戸川』
『鼻ほしい』など

四代目の受賞

勲五等双光旭日章他

四代目の弟子

四代目三遊亭小圓馬
三代目三遊亭遊三
三代目橘ノ圓
三遊亭圓太
三代目三遊亭圓輔
三遊亭若馬
五代目三遊亭圓雀
四代目三遊亭圓左
三遊亭左圓馬

四代目の移籍

三遊亭扇馬 - 圓馬の死後小圓馬門下に移籍

五代目 三遊亭圓馬

五代目 三遊亭 圓馬（1961年11月25日 - ）は、東京都港区西麻布出身で、本名を中山 聡といいます。落語芸術協会に所属しています。出囃子は『圓馬ばやし』です。八千代市立大和田中学校、千葉県立船橋西高等学校、高山美容専門学校を卒業しました。1988年8月に三代目橘ノ圓に入門し、「壱圓」を名乗りました。9月に浅草演芸ホールで初舞台を踏みました。演目は「穴子でからぬけ」でした。1993年2月に二ツ目に昇進し、「好圓」に改名しました。1997年2月には、北とぴあ若手落語家競演会奨励賞を受賞しました。2002年5月に桂米多朗と共に真打昇進し、五代目三遊亭圓馬を襲名しました。2019年6月より落語芸術協会の監事を務め、後に理事に昇格しました。

五代目の芸歴

1988年8月 - 三代目橘ノ圓に入門、前座名「壱圓」を名乗る。
1993年2月 - 二ツ目昇進、「好圓」に改名。
2002年5月 - 真打昇進、「五代目三遊亭圓馬」を襲名。

五代目の弟子

真打
三遊亭藍馬 - 師匠・圓の死去に伴い移籍
二ツ目
三遊亭吉馬
三遊亭仁馬
前座
三遊亭こと馬
三遊亭げん馬
三遊亭ば馬

五代目の役職

落語芸術協会監事（2019年6月 - ？）
落語芸術協会理事（？ - 現職）

五代目の外部リンク

三遊亭圓馬 (@emba_info) - X（旧Twitter）
三遊亭圓馬 (sanyutei.emba) - Facebook
五代目三遊亭圓馬一門 - YouTubeチャンネル
三遊亭圓馬 - 落語芸術協会

その他の圓馬

三遊亭圓馬 - 後の2代目三遊亭小圓朝。大阪の2代目圓馬からの苦情が来たため小圓朝に改名した。
團洲楼圓馬 - 後の三遊亭花圓遊。

脚注

参考文献

諸芸懇話会、大阪芸能懇話会共編『古今東西落語家事典』平凡社、ISBN 458212612X
* ご存じ 古今東西噺家紳士録

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