細川重賢

細川重賢：肥後熊本藩を立て直した名君

細川重賢（ほそかわ しげかた）は、江戸時代中期に肥後国熊本藩を治めた6代藩主であり、その卓越した手腕から「紀州の麒麟、肥後の鳳凰」と称えられた名君として知られています。彼は、藩財政の建て直し、教育制度の刷新、司法制度の改革など、多岐にわたる分野で優れた功績を残しました。

生涯と家督相続

享保5年（1721年）に4代藩主・細川宣紀の五男として生まれた重賢は、当初「長岡紀雄」と名乗っていました。兄・宗孝の急逝後、その跡を継ぎ、細川重賢と改名します。この「重」の字は9代将軍徳川家重から、「賢」の字は細川典厩家の通字に由来します。

重賢が藩主となるまでの熊本藩は、財政が深刻な危機に瀕していました。先代からの借財に加え、凶作や藩の過度な出費が重なり、その困窮ぶりは「鍋釜の金気を落とすに水はいらぬ。細川と書いた紙を貼ればよい」と揶揄されるほどでした。

藩主となる前の重賢も、質屋通いをしていたという逸話が残っており、当時の苦境を物語っています。しかし、延享4年（1747年）に兄・宗孝が不慮の事件で亡くなったことで、重賢に藩主の座が回ってきます。この際、仙台藩主伊達宗村の機転によって、お家取り潰しを免れたというエピソードも残っています。

宝暦の改革

藩主となった重賢は、直ちに藩財政の立て直しに取り組みます。宝暦2年（1752年）には、堀勝名を筆頭奉行に、蒲池正定を奉行に登用し、大胆な改革を断行しました。

堀は、まず大坂の豪商に借財を求めますが、当時の熊本藩の財政状況は極めて厳しく、難航します。しかし、新興商人であった加島屋との交渉に成功し、藩の年貢の一手引き受けを条件に資金を得ることに成功しました。また、重賢自身も質素倹約を奨励し、藩邸の費用を制限するなど、徹底した経費削減を行いました。

重賢は、米だけに頼る経済からの脱却を目指し、殖産興業を推進しました。楮、生糸、櫨などの専売制を導入し、蝋の生産を藩直営とするなど、新しい産業の育成に力を入れました。さらに、領内の検地を頻繁に行い、税収の安定化を図りました。これらの改革によって、藩財政は徐々に好転していきました。

また、飢饉に備えて穀物の備蓄を行い、天明の大飢饉の際には私財を投じて領民を救済しました。彼の治世は、藩財政の建て直しだけでなく、民への深い慈愛に満ちていたと言えるでしょう。

節約と逸話

重賢は、自らも質素倹約を実践し、その徹底ぶりは数々の逸話を生んでいます。例えば、3年の猶予期間を経て、男女ともに袷や木綿以外の着物を禁止しました。これは世継ぎである治年の生母に対しても例外ではありませんでした。また、入浴の際に湯を毎日替えることを無駄とし、家臣の諫めで打水に浸かる程度で済ませたという逸話も残っています。

改革の成果

宝暦の改革は、単なる財政再建に留まらず、地方に一定の権限と財源を与えるという画期的なものでした。重賢の時代には、通潤橋をはじめ、多くの橋、用水路、新田開発が行われました。これらの公共事業は、藩庁の資金、官銭、有力者の献金によって支えられました。さらに、地方のエリート少年を役場や庄屋の見習いとして育成し、将来の幹部役人として登用するシステムを確立しました。これらの施策によって、熊本藩は54万石から実質100万石に相当する経済力を有するまでになりました。

教育、司法制度の革新

重賢は、教育にも力を入れ、宝暦4年（1754年）には藩校「時習館」を設立しました。この学校は、身分に関係なく入学を許可し、広く人材育成に貢献しました。これは、日本初の公立学校とも言われています。さらに、奨学金制度も創設し、人材育成に注力しました。

また、宝暦6年（1756年）には、日本初の公立医学校「再春館」を設立し、医療の発展にも貢献しました。司法制度においても、『刑法叢書』を採用し、刑罰の軽減や罪人の社会復帰を促しました。これらの改革は、単なる刑罰の変更ではなく、人道的な側面を重視したものでした。

蘭癖大名

重賢は、蘭学にも傾倒し、薩摩藩の島津重豪、久保田藩の佐竹義敦らと共に「蘭癖大名」と称されました。彼の幅広い知識欲と進取の気性が、彼の治世の革新を支えたと言えるでしょう。

死去

天明5年（1785年）、重賢は江戸で亡くなり、品川の東海寺塔頭の妙解院に葬られました。享年66歳でした。彼の遺髪と落歯は、熊本市の北岡公園内妙解寺に保管されています。彼の死後も、熊本藩は彼が築いた基盤の上に発展を遂げました。

まとめ

細川重賢は、その卓越したリーダーシップと改革によって、熊本藩を危機から救い、その後の発展の礎を築いた名君として、歴史に名を刻んでいます。彼の業績は、今日の私たちにとっても多くの示唆を与えてくれます。

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