佐竹義敦

佐竹義敦（さたけよしあつ）：文人大名としての生涯

佐竹義敦は、出羽国久保田藩の第8代藩主であり、その治世は文化的な発展を遂げた時代として知られています。第7代藩主・佐竹義明の長男として生まれ、幼少の頃から秀丸と名付けられ、後に義直と改名しました。通称は次郎、号は曙山。官位は従四位下侍従、右京大夫。

藩主としての責務と芸術への情熱

宝暦8年（1758年）、父・義明の死去に伴い家督を相続し藩主となりました。藩主就任当初の秋田藩は、飢饉や農村の荒廃、佐竹騒動などにより藩政が混乱していました。そのような状況下で、義敦は現実から逃避するかのように絵画制作に没頭し、心の安らぎを求めたと言われています。彼は、土佐藩主の山内豊雍や薩摩藩主の島津重豪と親交を深め、共同で絵画を制作するなど、文化的な交流も積極的に行いました。

狩野派と西洋画の融合

義敦は、当時最大の正統派とされていた狩野派から絵画を学びました。当初、狩野派の絵師たちは、義敦の絵画への取り組みを大名の趣味程度にしか思っていませんでしたが、彼の熱意は本物でした。さらに、藩士の小田野直武から西洋画の技法を学び、日本画と西洋画を融合させた独自の画法を創り出しました。小田野直武は、平賀源内からもその才能を高く評価された人物でした。

日本初の西洋画論

義敦の命により、平賀源内の下で絵画の修行に励んだ小田野直武は、杉田玄白の『解体新書』の付図の作画を担当しました。帰国後、義敦と直武は共同で「画法綱領」や「画図理解」などの西洋画論を著しました。これは、日本で初めて西洋画論をまとめた画期的な著作でした。

秋田蘭画の創始

義敦は、「松に唐鳥図」（重要文化財）、「燕子花にハサミ図」、「竹に文鳥図」、「湖山風景図」などの絵画作品を制作し、膨大な数のスケッチを『写生帖』にまとめました。義敦と直武が創始した洋風画は、秋田派、または秋田蘭画と呼ばれ、銅版画の影響を受けた陰影のはっきりした画風が特徴です。

その後の生涯

義敦は天明5年（1785年）、38歳でこの世を去りました。跡は長男の義和が継ぎました。正室は山内豊敷の娘・賀。子には長男・義和、娘・敦（島津斉宣正室）など、4男6女がいます。

義敦が与えた偏諱

佐竹義敦は、以下の人物に偏諱を与えています。

佐竹義和（長男）
敦（娘、島津斉宣正室）
渋江敦光（家臣）
多賀谷敦敬（家臣）
多賀谷敦候（家臣、佐竹東家佐竹義智の子で敦敬の養子）
伊達敦宗（家臣）
伊達敦重（家臣、敦宗の実弟・養子）

関連文献

佐竹義敦に関する研究は、以下の文献でより深く知ることができます。

高階秀爾・武塙林太郎・養老孟司・芳賀徹・成瀬不二雄・河野元昭『江戸のなかの近代―秋田蘭画と「解体新書」』筑摩書房、1996年
成瀬不二雄『佐竹曙山 画ノ用タルヤ似タルヲ貴フ』ミネルヴァ日本評伝選：ミネルヴァ書房、2004年
土屋輝雄『蘭画大名 佐竹曙山』東洋書院、1999年
三輪英夫『小田野直武と秋田蘭画 日本の美術第327号』至文堂、1993年
伊藤武美『佐竹義敦と桂寿院―秋田蘭画の光と陰』秋田文化出版、1991年

関連項目

秋田蘭画
蘭癖

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