細胞分化

細胞分化とは

細胞分化とは、発生生物学において、特殊化していない細胞が、より特定の機能を持った細胞へと変化するプロセスのことです。この現象は、多細胞生物が成長する過程で、単純な受精卵から複雑な組織や細胞の種類へと変化していく際に何度も繰り返されます。

また、成体においても、組織の修復時や通常の細胞分裂の際に、成体幹細胞が分裂し、完全に分化した細胞を生み出すという形で、細胞分化は常に起きています。細胞分化は、細胞の大きさ、形状、膜電位、代謝活性、シグナル伝達など、細胞の性質を大きく変化させます。これらの変化は、主に遺伝子の発現を高度に制御することによって起こります。細胞の分化は、基本的にDNA配列自体の変化を伴わないため、同じゲノムを持つ細胞でも、異なる機能や特性を持つ細胞が存在することになります。

細胞の多様性と分化能

細胞には、様々な種類が存在し、それぞれ異なる役割を担っています。細胞がどのような細胞に分化できるかの能力を「分化能」といいます。全ての組織に分化できる能力を「多能性」といい、動物の胚性幹細胞や植物の分裂組織の細胞がこの能力を持っています。一方、胎盤を含めた全ての細胞に分化できる「全能性」を持つ細胞は、哺乳類では受精卵かそれに続く割球由来の細胞のみです。

細胞病理学では、細胞分化の度合いを悪性腫瘍の進行度を測る指標として利用しています。癌細胞がどの程度分化しているかを示す指標である悪性度分類は、癌の進行度を判断する上で重要な情報となります。

哺乳類の細胞

哺乳類の体を構成する細胞は、大きく分けて生殖細胞、体細胞、幹細胞の3つに分類できます。成人の体内には約100兆個の細胞が存在し、これらの細胞はそれぞれ独自の役割を担っています。ほとんどの細胞は、二組の染色体を持つ二倍体であり、皮膚や筋肉などの体細胞がその大部分を占めます。体細胞は、それぞれ異なる機能に特化して分化しています。

生殖細胞は、卵子や精子といった配偶子を生成し、世代を超えて遺伝情報を伝達します。一方、幹細胞は、無期限に分裂し、分化した細胞を生み出す能力を持っています。特に、ヒトの発達の過程において、幹細胞は重要な役割を果たします。

受精卵から多能性幹細胞へ

受精卵は、受精後最初の数時間で分裂を開始し、この初期段階の細胞は全能性を持っています。ヒトでは、受精後約4日後、数回の細胞分裂を経て、細胞は胚盤胞と呼ばれる中空の球状構造を形成し、この時点で細胞分化が始まります。

胚盤胞は外側の細胞層と、内側に存在する内部細胞塊という細胞群から構成されており、この内部細胞塊が、さらに分化することでヒトの個体を形成します。ただし、内部細胞塊だけを取り出しても、完全な個体にはなりません。これは、内部細胞塊が受精卵から分化する過程で全能性を失い、多能性になったためと考えられます。この多能性幹細胞は、様々な種類の機能細胞に分化できる能力を持っています。

多能性幹細胞の種類

多能性幹細胞は、特定の機能を持つ細胞へと分化する前段階である前駆細胞を生み出し、そこからさらに様々な種類の細胞へと分化していきます。以下は、幹細胞や前駆細胞の例です。

造血幹細胞（成人幹細胞）: 赤血球、白血球、血小板などの血液細胞を生成します。
骨髄間質細胞（成人幹細胞）: 間質細胞、脂肪細胞、様々な骨細胞を生成します。
上皮幹細胞（前駆細胞）: 様々な種類の皮膚細胞を生成します。
筋衛星細胞（前駆細胞）: 筋肉組織の分化に寄与します。

関連事項

分化
分化能
人工多能性幹細胞
エピジェネティクス

外部リンク

* 細胞分化 - 脳科学辞典

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