経済地理学会

経済地理学会（けいざいちりがっかい、英語名称: the Japanese Association of Economic Geographers, JAEG）は、日本の経済地理学を主な研究対象とする学術団体です。1954年に発足し、社会科学としての地理学の進展に寄与することを設立当初からの目的としています。

活動内容

本学会は、研究成果の発表や会員間の交流を促進するために、様々な活動を行っています。

毎年春には全国規模の大会を、秋には特定の地域に焦点を当てた地域大会を開催しています。
国内に設置された五つの地域支部（北東、関東、中部、関西、西南）では、定期的に例会を開き、活発な議論の場を提供しています。
学会の機関誌である『経済地理学年報』を年4回発行しており、最新の研究論文や関連情報を提供しています。
2011年9月時点での会員数は735名であり、多様なバックグラウンドを持つ研究者が参加しています。
* 近年の会長としては、2018年度から2019年度にかけて松橋公治氏が務めました。

沿革と研究潮流

経済地理学会は、1951年に組織された経済地理研究会を前身として発展し、1954年に現在の名称で正式に発足しました。かつては、経済学を専門とする研究者が経済地理学に転じた事例が多く、これが他の地理学関連学会と比較した際の特徴として挙げられていました。

学会の歴史においては、研究の方向性や運営方法を巡る議論が時に生じています。特に1990年代後半には、組織運営に関する大きな出来事がありました。

1990年代後半の内紛

1970年代頃までマルクス主義地理学の立場を取り、その後は国土庁の審議会委員なども歴任した矢田俊文氏が提唱した地域構造論の研究潮流が存在しました。当時、この地域構造論の研究を支持していたとされる代表幹事の山本健兒氏を中心とする執行部は、学会の会則を変更し、執行役員の選出を会員による直接選挙から評議員による間接選挙へと改めようと提案しました。

この会則改正案に対し、元会長である一橋大学の青木外志夫氏らが反対の意思を表明し、学会内部で激しい対立（内紛）が生じました。改正案は1999年の学会総会に提出され、3時間に及ぶ長時間の審議が行われました。最終的に、改正案は総会で承認されました。この改正案可決後に行われた役員選挙では、矢田俊文氏が新たな会長に選出されました。

事務局移転と研究者の動向

この内紛とほぼ同じ時期に、日本のマルクス経済地理学の研究を長きにわたり牽引した野原敏雄氏が学会を退会するという出来事もありました。

また、学会の事務局は、1979年から約20年間にわたり、当時執行部とは異なる立場にあった水岡不二雄氏が所属する一橋大学の現代経済研究室に設置されていました。2000年の総会において、事務局を地理教育の拠点として知られる東京学芸大学へ移転する案が議決されました。これに対し、事務局を置いていた水岡氏は強く反発し、総会の場で短時間のうちに学会資産を撤去するよう求め、その場を退場しました。結果として、移転作業は総会から2週間後に実行されましたが、これにより、学会への寄贈図書を中心に公開されていた図書室は閉鎖を避けられなくなりました。

その後も学会事務局は移転を重ねており、2010年1月からは東京経済大学に、2015年3月からは成蹊大学に設置されています。

研究スタンスの多様性と課題

会員の構成を見ると、現在の経済地理学会には、前述の地域構造論を支持する研究者だけでなく、個別の経済活動や地域の詳細な記述を重視する伝統的な地誌学的研究者、社会批判的な視点を持つ批判地理学系の研究者、さらには人文地理学系の研究者など、多様な研究者が参加しています（経済学者も少数ながら参加しています）。

しかし、水岡不二雄氏は、自らが学会を離れた後の状況について、執行部を構成する役員の多くが地域構造論を支持する研究者で占められており、他のスタンスの研究者は少ないと批判的な見解を示しています。

実際に、会則が改正される以前は、学会誌に批判地理学の論文が掲載されたり、水岡氏が実行委員長を務めた40周年記念大会で批判地理学に関連するテーマが扱われたりする機会がありました。しかし、矢田氏が会長に就任して以降は、そうした傾向は見られなくなったと指摘されています。

現代の日本の経済地理学研究においては、「新経済地理学」と呼ばれる分野に取り組む経済学者系の研究者が応用地域学会などを中心に活動していること、そして水岡氏のような影響力のある研究者が本学会から離れている状況がある点を考慮すると、現在の経済地理学会が、国内の経済地理学における研究の多様な潮流全てを網羅し、代表しているとは必ずしも言えない可能性があると考えられます。

本学会は、日本の経済地理学研究において重要な役割を担ってきましたが、その歴史の中で生じた様々な経緯や、学術潮流の多様化・細分化といった現代的な課題にも直面していると言えるでしょう。

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