結綿

結綿（ゆいわた）

結綿は、江戸時代後期から日本の若い未婚女性に結われてきた伝統的な髪型で、日本髪における島田髷の一種です。その名の由来は、形が真綿を束ねた様子に似ていることから来ているとされます。「結い綿」「結ひ綿」「ゆひ綿」とも表記されます。

特徴

この髪型は、島田髷の中でも髷の根元を低く抑えた「つぶし島田」を土台とします。そこに、鮮やかな緋色で鹿の子絞りが施された縮緬（ちりめん）の布、「手絡（てがら）」を結びつけるのが最大の特徴です。手絡は「髷かけ」や「わげくくり」とも呼ばれました。髪の結い方そのものはつぶし島田とほぼ同じですが、髷の上に結ばれた赤い手絡が非常に印象的で、見る者に若々しく華やいだ雰囲気を与えます。

歴史と着用者

結綿は江戸時代後期に登場しました。特に江戸では、天保年間（1830年～1844年）頃まで、緋色の縮緬を手絡として使う髪型が流行しました。京阪地方では、この赤い手絡を髪の根元（髻）と髷にかけて結んだ髪型を特に「結綿」と呼んだとされています。

当初、江戸後期には町娘、芸者、遊芸の師匠など、比較的幅広い層の女性に結われていました。しかし、江戸時代末期から明治、大正にかけての近代になると、主な着用者は若い娘、特に下町で暮らす娘たちにシフトしていきます。明治35年（1902年）に東京の髪結いが語った言葉からは、当時も10代半ばから後半にかけての若い女性、具体的には半玉（一人前になる前の若い芸妓）や町娘にとって、愛らしく娘らしさを引き立てる髪型として人気があったことがうかがえます。新橋のような花柳界でも好まれていたようです。

現代においても、結綿は特別な髪型として受け継がれています。特に京都では、毎年2月の節分に行われる「おばけ」という仮装行列の際、舞妓さんたちが普段の髷から結い変える人気の髪型のひとつとなっています。

結い方

結綿の結い方は、基本的に土台となる島田髷、とりわけつぶし島田のそれに準じます。

1. まず、顔周りの前髪をふっくらと、やや張り出すように形作り、布紐などでまとめて後ろへ流します。
2. 耳の横の鬢（びん）も自然な丸みを帯びるように張り出させます。京都の舞妓さんの場合は、町娘よりも鬢を大きく張らせるのが特徴です。
3. 後ろ髪を後頭部のやや高い位置で一つにまとめ結びます。
4. 結んだ髪を一度前に折り返します。この時、髷の根元をあまり高く上げすぎないのが粋な「つぶし島田」の結い方です。武家風の仰々しい印象を避けるため、町人は低めに結うことを好みました。
5. 再び後ろに折り返し、元結で固定して髷の形を作ります。
6. 最後に、この元結の上に、緋色の鹿の子絞りの縮緬で作られた手絡を結びつけます。
7. 襟足側の髱（たぼ／つと）は、あまり張り出させず、自然にまとめるのが一般的です。

全体として、やわらかく丸みを帯びたシルエットになり、いかにも京の町娘らしい、可憐でかわいらしい印象に仕上がります。

装飾

結綿には、手絡の他に様々な装飾品が添えられます。手絡の上に重ねて、平打ち簪（かんざし）や季節の花を模した花簪、そして飾り櫛などが用いられます。これらの飾りと赤い手絡が相まって、若い女性らしい華やかさを一層引き立てます。

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