統合基本航空機訓練システム計画

統合基本航空機訓練システム計画(JPATS)：近代化とコスト削減を目指した共同訓練システム

アメリカ空軍と海軍は、1980年代後半、老朽化した基本練習機の更新を検討していました。空軍はセスナT-37、海軍はT-34Cを運用していましたが、いずれも設計が古くなっており、更新が喫緊の課題となっていました。空軍は当初、次世代練習機計画(NGT計画)を推進し、フェアチャイルドT-46を採用しましたが、開発費用の高騰により計画は頓挫しました。

この経験を踏まえ、空軍と海軍は1988年、練習機の近代化において共通の機体を導入することで合意。コスト削減と運用効率の向上を目指し、統合基本航空機訓練システム計画(JPATS)がスタートしました。しかし、両軍の要求は必ずしも一致していませんでした。空軍は並列複座の純ジェット機、海軍はタンデム複座のプロペラ機を希望していました。

激戦の機体選定：多様な提案と厳しい評価

1994年、JPATS計画への提案依頼が公表されると、8社が競争に参加しました。700機以上という大規模な調達計画だったため、世界中から様々な練習機が提案されました。提案された機体は、既存の練習機を米空海軍向けに改修したものが多く、それぞれの設計思想や性能に違いが見られました。

競争に参加した機体には、アエロ・ヴォドフォディ社L-139アルバトロス2000、ビーチクラフト社(ピラタス社と共同)PC-9 Mk.II、セスナ社526、エンブラエル社EMB-312H、SIAI-マルケッティ社S-211A、アエルマッキ社MB-339 TバードII、ロックウェル・レンジャー2000、そしてFAdeA社パンパ2000などがありました。これらの機体は、エンジン、座席配置、性能など様々な点で異なる特徴を持っていました。

ビーチクラフトT-6テキサンIIの選定：14ヶ月におよぶ厳格な審査

選定プロセスは14ヶ月に及び、実機とコックピットのモックアップ、数千ページに及ぶ提案書が審査されました。その結果、1995年6月22日、ビーチクラフト社が提案したピラタスPC-9 Mk.IIが選定されました。この機体は、T-6テキサンIIという制式名を与えられ、空軍の航空教育・訓練軍団と海軍の海軍航空訓練軍団に配備されました。また、カナダ空軍などアメリカ国外の空軍にも採用され、850機以上が製造される成功を収めました。

落選機のその後：新たな道を歩んだ機体たち

落選した機体の中には、その後も発展を遂げたものがありました。エンブラエル社EMB-312Hは、ブラジル空軍の軽攻撃機として採用され、EMB-314として広く世界各国で運用されています。また、アメリカ空軍のアフガニスタン支援計画にも採用されました。アエロ・ヴォドフォディ社L-139は、L-39NGとして改良され、アメリカやチェコの民間軍事会社によって訓練支援に用いられています。

JPATS計画は、近代化とコスト削減を目標とした、アメリカ空軍と海軍の戦略的な取り組みでした。その結果として採用されたT-6テキサンIIは、世界各国の空軍で活躍するまでに至っています。一方、落選した機体もそれぞれ独自の道を歩み、それぞれの技術や設計思想が様々な形で発展を遂げました。この計画は、軍事航空機開発における国際協力や技術競争の現状を示す重要な事例と言えるでしょう。

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