継桜王子

継桜王子（つぎざくらおうじ）は、和歌山県田辺市中辺路町に鎮座する歴史深い神社です。熊野九十九王子の一つとして知られ、古くから熊野参詣の道標として信仰を集めてきました。

歴史と変遷

継桜王子は、1109年（天仁2年）の『中右記』に「続桜」として、また1201年（建仁元年）の『熊野道之間愚記』には「継桜」として記録が見られます。これらの文献から、当初は現在の場所よりも東側に位置していたと推測されています。その後、天正年間（1573年頃）に現在の場所に移されたという記録も残っています。
江戸時代には若一王子権現と呼ばれ、野中集落の氏神として信仰されました。境内には拝殿をはじめ、見明之明神社、金毘羅社、秋葉社などがあり、広大な境内を有していました。明治時代には村社に列格されましたが、1909年（明治42年）に近野神社に合祀されました。その後、戦後の1950年（昭和25年）に御神体が元の場所に戻され、旧状に復元されました。

継桜と伝説

継桜王子は、その名にもなっている「継桜」と呼ばれる桜の木で知られています。この桜は、何度か枯れ、植え替えられてきた歴史があります。『紀南郷導記』によると、紀州藩主・徳川頼宣の命により植え替えられたり、明治22年（1889年）の大水害で倒れたりしたのち、現在の場所に植えなおされたと伝えられています。
継桜は「秀衡桜」とも呼ばれ、奥州藤原氏の藤原秀衡にまつわる伝説が伝わっています。秀衡が熊野参詣の際に、奥方で出産。赤子を滝尻王子の窟に残し参詣を続け、帰路、その子の安否を祈って桜の枝を地面に突き刺したところ、桜が育ち、無事に子が育っていたというものです。この伝説は、継桜の奇跡を強調し、熊野参詣の功徳を説くために後世に付会された可能性も示唆されています。

南方熊楠と一方杉

継桜王子を特徴付けるもう一つの要素として、神社を囲む巨木の森があります。特に「野中の一方杉」と呼ばれる杉は、樹齢800年以上、直径2～3mを超える巨木が9本もあり、その多くが南東方向の那智山に向けて枝を伸ばしているのが特徴です。
これらの巨木群が現在も残っているのは、南方熊楠の尽力によるものが大きいです。熊楠は神社合祀令による神社林の伐採に反対し、白井光太郎らとともに伐採阻止運動を行いました。その結果、継桜王子の神社林の中心部は伐採を免れましたが、多くの神社は廃れ、神社林は消滅していきました。

その他

継桜王子境内には、名水百選にも選ばれた「野中の清水」があり、古くから旅人の休憩所として利用されてきました。また、野中の獅子舞は、約700年の歴史を持つと伝えられる県指定民俗文化財であり、毎年1月2日・3日、11月3日に奉納されています。
継桜王子には、松尾芭蕉の門人・服部嵐雪と斎藤茂吉の句碑・歌碑も建立されています。これらの碑は、彼らが熊野を訪れた際に詠んだ歌や句を刻んでいます。

継桜王子は、歴史、伝説、自然、文化が一体となった貴重な場所であり、熊野古道の魅力を象徴する存在と言えるでしょう。

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