網代 (熱海市)

網代（あじろ）

網代は、静岡県熱海市の南東部に広がる地域で、相模灘に面しています。かつては網代村、さらに網代町として独立した自治体でしたが、現在は熱海市の一部を構成しています。この地域は古くから漁港として栄え、現在も温泉地として多くの人々が訪れる場所です。本稿では、網代の地理、その歴史的な変遷、そして地域に根付いた文化について解説します。

地理

熱海市の南東端に位置する網代は、東側と北側で相模灘の美しい海岸線に接しています。陸地では、西側は同じ熱海市の下多賀地区と、南側は伊東市の宇佐美地区と隣接しています。地域内には、地元漁業の拠点である網代漁港や、観光資源として重要な網代温泉があり、訪れる人々を惹きつけています。海岸沿いには主要幹線道路である国道135号線が走り、地域内外を結ぶ大動脈となっています。交通アクセスに関連して、JR伊東線の網代駅は、網代地区そのものではなく、隣接する熱海市下多賀地区に位置している点に留意が必要です。

地名の由来

「網代」という地名は、この地域がかつて漁師たちが網を仕掛けて魚を捕るための重要な漁場、すなわち「網代」であったことに由来すると伝えられています。漁労の場所を示す言葉が、そのまま村や地域の名称として定着したと考えられています。

歴史

網代は江戸時代において、海上交通の要衝として非常に重要な役割を果たしました。「京大阪に江戸網代」と並び称されるほど、全国各地から江戸を目指す多くの廻船が寄港し、港は活気に満ちていました。寄港した船の荷物を売買する際の斡旋料（口銭）収入や、航海中の潮濡れなどで上納品として認められなくなった「濡米」の流通なども地域の経済を潤し、賑やかな港町として繁栄しました。

明治時代の幕開け頃、網代は韮山代官所と旗本酒井氏によって管轄されていました。1868年（慶応4年）には、新政府によって韮山代官所に設置された韮山県の管轄下に入ります。同年10月には、網代港に停泊していた軍艦「翔鶴丸」が爆発炎上し、火災が町家にも延焼するという未曽有の災害に見舞われ、275戸もの家屋が被害を受けました。

その後の府県統合により、1871年（明治4年）には足柄県、1876年（明治9年）には静岡県の管轄となりました。1889年（明治22年）の町村制施行に伴い、古くからの網代村が単独で自治体を形成し、賀茂郡網代村として発足します。1896年（明治29年）には郡制の施行により、所属郡が田方郡に変更されました。1924年（大正13年）には町制が施行され、網代町が誕生しました。そして、1957年（昭和32年）4月1日、網代町は熱海市に編入合併され、熱海市の一部である大字「網代」として現在に至っています。

経済

現在の網代の経済は、主に漁業と観光によって支えられています。網代漁港は、いとう漁業協同組合の網代支所が置かれるなど、今も地域の重要な産業基盤です。また、古くからの温泉地である網代温泉には、多くの宿泊施設が集まり、観光客誘致に貢献しています。

交通

公共交通としては、伊豆東海バスが熱海駅方面と網代地区を結ぶ路線バスを運行しており、地域の主要な移動手段となっています。道路網では、海岸線を縦断する国道135号線が中心的な役割を果たし、交通の要衝となっています。また、宇佐美-網代バイパスも整備され、交通利便性が向上しています。先述の通り、JR伊東線の網代駅は、地区境に近い下多賀地区に位置しています。

教育・施設

かつて網代には、熱海市立網代小学校と熱海市立網代中学校がありましたが、それぞれ2021年3月と2006年3月に閉校しています。地域には、網代郵便局、網代公民館、網代栄会館といった生活関連施設に加え、網代朝日山公園、網代魚市場などがあります。気象観測点として気象庁の特別地域気象観測所も設置されています。郵便番号は413-0103、警察の管轄は熱海警察署南熱海交番です。

名所・旧跡

網代には歴史を感じさせる多くの名所旧跡が点在しています。阿治古神社は地域の守護神として厚く信仰されており、特に毎年7月下旬に行われる例大祭は盛大です。この祭りの御神幸行列では、船の形をした独特の御神輿「両宮丸」が町を巡ります。行列では、豊臣秀吉公から使用を許されたという「流れ瓢箪」の模様や、徳川秀忠公（あるいは家光公とも伝わる）から許されたという「白の吹き流し」が使われるなど、歴史的な由緒が語り継がれています。また、例大祭で奉納される阿治古神社鹿島踊は、熱海市の無形文化財に指定されています。その他にも、弁天神社、若宮神社といった神社や、善修院、長延寺、教安寺、安養寺などの仏閣、そして網代長谷観音などがあります。

文化

網代を象徴する文化の一つに、「大漁桜（タイリョウザクラ）」があります。これは、熱海市立多賀中学校の元校長であった角田春彦氏が作出した、早咲きの桜の品種です。例年2月下旬から3月上旬にかけて美しい花を咲かせます。この大漁桜の原木は、かつて網代漁港にありましたが、1998年頃に地元の漁業関係者の手によって阿治古神社に寄贈され、現在も本殿の脇に2本の原木が大切に植えられています。

関連事項

過去においては、網代町は静岡県から廃止された市町村の一つとして歴史に名を残しています。

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