網干善教

網干善教（あぼし よしのり）

1927年9月29日、現在の奈良県明日香村で生まれた考古学者、関西大学名誉教授。専門は考古学、古代史、仏教史に及び、郷里である明日香村の名誉村民にも選ばれている。

生涯と研究活動

明日香村で生まれた網干は、3歳で父の網干順三が唯称寺の住職となったため、石舞台古墳のすぐ下にあるこの寺に移り住んだ。幼い頃から1933年に始まった第一次石舞台発掘調査を身近に見て育ち、考古学への関心を深めた。

旧制畝傍中学校（現・奈良県立畝傍高等学校）時代からは、当時京都帝国大学考古学研究員で、後に橿原考古学研究所初代所長となる末永雅雄が指揮する石舞台古墳の発掘に参加。考古学に一層傾倒し、橿原考古学研究所で末永の指導を受けることになった。

中学校卒業後、佛教専門学校（現・佛教大学）を経て、末永が教鞭をとっていた龍谷大学文学部史学科に進学。大学院まで含め、17年間にわたり末永博士の講義を聴き続けたという。龍谷大学大学院文学研究科を修了後、関西大学助教授に就任した。

考古学者としての網干のキャリアにおいて特筆されるのは、奈良県立橿原考古学研究所員として参加した1972年の高松塚古墳発掘調査である。この調査中に彩色壁画を発見し、日本社会に空前の考古学ブームをもたらした。その後、関西大学で末永雅雄の後任として文学部教授に昇格。1979年には学位論文『終末期古墳の研究』を提出し、文学博士号を取得した。関西大学では博物館長も務め、退職後は名誉教授となった。晩年は佛教大学などで後進の指導にもあたった。

業績と貢献

網干は師である末永雅雄門下の中でも、森浩一、伊達宗秦と共に「三羽烏」と称されるほど、その実力を高く評価されていた。考古学における実証的な手法を非常に重視し、その門下からは今日の考古学調査の第一線で活躍する多くの研究者や調査者が輩出されている。

特に高松塚古墳に関しては、壁画発見という歴史的な業績の一方で、その後の石室解体保存を巡る文化庁の対応に対しては批判的な立場を明確にした。「遺構を人為的に動かすことは遺跡の破壊行為である」として、文化庁の管理体制や事後対策の不備を厳しく指摘し、考古学者の視点から一貫して反対の姿勢を貫いたことは、その学術的な厳格さを示すエピソードである。

国内の遺跡調査に加え、自身が僧籍にあったことから、インドにおける仏教遺跡の研究にも力を注いだ。インド考古局との共同調査では、ウッタル・プラデシュ州の祇園精舎として知られるジェータバナ・ビハル（祗樹給孤独園精舎）や、近傍の舎衛城（シュラーヴァスティー）などの発掘活動に貢献。仏教考古学や北インドの考古学分野に重要な足跡を残した。

受賞・栄典

2006年に死去した際、従五位に叙された。また、瑞宝中綬章も受章している。

家族

父・網干順三は、作家梶井基次郎の異母弟にあたる。

主要著作

『講座 飛鳥を考える』（横田健一共著、創元社 1976年）
『謎の大寺：飛鳥川原寺』（NHK取材班共著、日本放送出版協会 1982年）
『世界の考古学』（関西大学出版部 2000年）
『改訂版 博物館学概説』（高橋隆博共著、関西大学出版部 2001年）
* 『古代葛城とヤマト政権』（共著、学生社 2003年）

多数の学術論文も発表しており、仏教考古学や古代史に関する重要な研究成果を残している。

2006年7月29日に死去。考古学界におけるその功績は大きく、特に高松塚古墳壁画の発見と、それに続く文化財保護を巡る問題提起は、後世に語り継がれている。

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