繆斌

繆斌（みょう ひん）とは

繆斌（みょう ひん、または、ぼく ひん、びゅう ひん）は、中華民国（現: 台湾）の政治家です。中国国民党の党員であり、後に南京国民政府に所属しました。一般的には「みょう ひん」と読まれることが多いですが、戦前には「びゅう ひん」とも読まれていました。字は弼丞、号は丕成です。

生涯

国民党のエリート

上海南洋大学電気科を卒業後、1922年に中国国民党に入党しました。翌年には黄埔軍官学校の教授として招聘され、電訊・政治教官を務めました。1925年には、軍校教導第1団党代表として第1次東征に参加し、孫文主義学会の発起人の一人にもなりました。その後も国民革命軍で要職を歴任し、党内でも重要な地位を占めました。

1926年、蔣介石が北伐を開始すると、繆斌は総予備隊政治部主任、第1軍副党代表などの要職を兼任しました。その後も国民革命軍総司令部軍需局長、国民政府軍事委員会経理処処長など、重要な役職を歴任しました。1928年には、国民党中央執行委員に選出され、江蘇省政府委員や民政庁長も務めました。

しかし、1931年に汚職事件で弾劾され、全ての職を辞任して日本へ渡りました。この背景には、日頃から私淑していた胡漢民が蔣介石によって監禁されたことへの反発があったという説もあります。

帰国後の1933年には『武徳論』を著し、武力こそが道徳であり、軍人は服従を本分とするという独自の主張を展開しました。

親日政権への参加

日中戦争が勃発すると、1937年12月に繆斌は北京に成立した親日政権である中華民国臨時政府に参加し、新民会中央指揮部部長として王克敏を補佐しました。この頃、日本の軍人である石原莞爾と親交を深め、「東亜連盟運動」を推進しました。

1940年3月に汪兆銘が南京国民政府を樹立すると、繆斌は中央政治委員会聘請委員に任命され、その後も憲政実施委員会常務委員、中日文化協会名誉理事などの要職を歴任しました。1941年には東亜聯盟中国総会の常務理事、立法院副院長、軍事委員会委員にも任命されました。1943年には第4期中央政治委員会指定委員に選出されました。

繆斌工作

1943年8月、繆斌は蔣介石の重慶国民政府の軍統や何応欽と連絡を取り始めました。1945年3月には、重慶国民政府の密命を受け、日本の傀儡政権であった南京政府の解消を条件に、日本軍の中国撤退や満州国の承認を求める日中単独和平交渉を小磯國昭内閣に提案しました。

当時、対英米戦線で苦戦していた日本にとって、この提案は好条件であったため、小磯首相や緒方竹虎らは和平交渉を推進しようとしました。しかし、外務大臣の重光葵がこの和平交渉に猛反対しました。重光は、繆斌を「いかがわしい和平ブローカー」と批判し、蔣介石とは繋がっていないと主張しました。その結果、陸海軍首脳も反対に転じ、小磯内閣は総辞職に追い込まれました。この繆斌工作は失敗に終わりました。

繆斌が本当に蔣介石の密命を受けていたのかについては諸説あります。例えば、繆斌が日本滞在中に「私が東京にいる間は東京空襲は起こらないはずだ」と発言したという証言もあります。また、戦後には蔣介石が和平交渉を指示していたという証言も出ています。これらの証言は、繆斌工作の真相をより複雑にしています。

突然の処刑

日本敗戦後の1945年9月、繆斌は漢奸狩りで上海で逮捕され、獄中で弁明を試みましたが、1946年4月には敵国通謀罪（漢奸）で死刑判決を受けました。繆斌は控訴を試みましたが認められず、同年5月21日に銃殺刑に処せられました。享年48歳。漢奸粛清で最後に捕まったにもかかわらず最初に処刑された人物となりました。

繆斌の処刑が早すぎたことから、蔣介石には繆を「漢奸」として処断する以外にも、別の意図があったのではないかという見方もあります。例えば、繆斌が東京裁判で和平工作の証人として呼ばれるのを恐れた蔣介石が、口封じのために処刑した可能性が指摘されています。和平工作が公になれば、カイロ会談で蔣介石が徹底した対日抗戦を主張しながら、その裏で日本との和平を目論んでいたことが明らかになるためです。

関連人物

小澤開作: 繆斌と親交がありました。
石美瑜: 繆斌の裁判長を務めました。

まとめ

繆斌は、中国国民党のエリートとして活躍し、その後、親日政権に参加した複雑な経歴を持つ政治家でした。日中和平交渉に関わるなど、重要な役割を果たしましたが、最終的には「漢奸」として処刑されました。彼の生涯は、当時の複雑な政治情勢を反映するものであり、様々な議論を呼んでいます。

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