併合罪

併合罪について

併合罪とは、刑法における罪数論上の概念で、以下の2つのケースを指します。

1. 同時的併合罪: 確定裁判を経ていない2つ以上の罪（刑法45条前段）
2. 事後的併合罪: 過去に禁錮以上の刑の確定裁判があった場合、その裁判が確定する前に犯した罪（同条後段）

併合罪は、各々の罪の法定刑を個別に扱うのではなく、刑の加重減軽の順序に従って決定した1つの処断刑を科すことになります。

沿革

日本の旧刑法では、複数の罪を犯した場合、最も重い罪に従って処断する吸収主義が採用されていました。これは、フランス刑法や律の伝統の影響を受けていました。

しかし、現行刑法ではドイツ刑法の影響を受け、併合罪に対して加重主義（有期懲役・禁錮の場合）が採用されています。

刑法45条前段の併合罪（同時的併合罪）

確定裁判を経ていない2つ以上の罪は、同時的併合罪となります。

例えば、Aを殺害した後にBを殺害した場合、Aに対する殺人罪とBに対する殺人罪は併合罪となります。

処断刑

併合罪の処断刑は、以下のルールに従って決定されます。

死刑: 併合罪のうち1つに死刑を科す場合、他の刑は科されません（没収は除く）。
無期刑: 併合罪のうち1つに無期懲役・禁錮を科す場合、他の刑は科されません（罰金、科料、没収は除く）。
有期刑: 併合罪のうち2つ以上に有期懲役・禁錮を科す場合、最も重い罪の刑の上限に2分の1を加えたものが上限となります。ただし、上限は30年を超えず、各罪の刑の上限の合計を超えることはできません。

例：強盗罪（上限20年）と恐喝罪（上限10年）の併合罪の場合、上限は30年となります。
罰金: 併合罪のうち2つ以上に罰金を科す場合、各罪の罰金額の上限の合計以下で処断されます。
その他: 罰金、拘留、科料、没収は他の刑と併科されます。

刑法45条後段の併合罪（事後的併合罪）

禁錮以上の刑に処する確定裁判があった場合、その裁判が確定する前に犯した罪が事後的併合罪となります。

確定裁判を経た罪と未確定の罪がある場合は、未確定の罪について処断します。

事後的併合罪の量刑

事後的併合罪の量刑は、確定判決の効力（一事不再理）から複雑な問題を含みます。

刑法に明文の規定はありませんが、判例・通説では、事後的併合罪の処理について、確定判決の刑と未確定の刑を合わせたものが、もし同時的併合罪であった場合に科されるべき刑と同程度になるように、未確定の刑を調整すべきと解釈されています。

併合罪の遮断

禁錮以上の刑に処する確定判決後に犯した罪は、原則として併合罪とはならず、刑が併科されます。

これは、確定判決によって犯人に反省・自己矯正の機会が与えられるため、その後に犯した罪はより悪質であると評価できるからです。

ただし、罰金以下の刑の確定判決では、併合罪は遮断されません。

不可分説と可分説

併合罪の遮断の考え方には、不可分説と可分説という対立があります。

不可分説: 集合犯（常習犯・営業犯）のように本来一罪と評価される犯罪については、確定判決があっても全体を一つの罪として評価すべきとします。
可分説: 集合犯であっても、犯罪の性質や確定判決を受けた状況によっては、複数の罪に分けて評価すべきとします。

通説と判例は、不可分説と可分説の折衷的な立場を取っており、集合犯については原則として一罪と評価しますが、罪質によっては複数の罪に分けて評価する場合もあります。

通説に対する批判

通説に対しては、確定判決に「警告」としての意味を認めつつも、反復した罪と確定判決の罪との間に、保護法益や行為の面で構成要件が実質的に重なり合わない場合には、併合罪として処理すべきという批判があります。

具体例

例えば、オートバイ窃盗罪の確定判決前に複数の強姦致傷罪を犯し、確定判決後に更に強姦致傷罪を犯した場合、確定判決前の罪は併合罪となり、確定判決後の罪はそれとは別に処断され、刑が併科されます。

まとめ

併合罪は、罪の数え方や処断刑を決定する上で複雑な問題を抱えています。法律の専門家でも判断を迷うケースもあり、今後の議論が求められる分野です。

参考文献

『刑法45条後段の解釈について』中島広樹、大宮ローレビュー第9号、大宮法科大学院大学

関連項目

罪数
科刑上一罪
包括一罪
新潟少女監禁事件

もう一度検索