羅瑞卿

羅瑞卿（ら ずいけい、1906-1978）は、中華人民共和国の建国に貢献した政治家であり軍人です。階級は大将でした。かつては毛沢東の腹心として厚い信頼を得ていましたが、1960年代半ばから始まった文化大革命の混乱の中で地位を追われました。文革終結後に名誉が回復されたものの、そのわずか一年後にこの世を去っています。

経歴

1906年5月31日、清朝時代の四川省に生まれました。1923年に南充中学、1926年に成都実業專修学校で学びました。同年10月に重慶へ移った後、中国共産主義青年団（共青団）に加入し、また同時期に中央軍事政治学校（通称：黄埔軍官学校）で学びました。1928年10月、呉玉章の紹介で中国共産党に入党します。1929年に中国工農紅軍に参加。その後、福建省西部での遊撃隊を率いたのを皮切りに、紅四軍参謀長、縦隊政治委員、師団政治委員、軍政治委員、中央紅軍先遣隊参謀長、紅一方面軍保衛局局長、中央ソビエト紅軍大学教育長・副校長など、軍の様々な要職を歴任しました。1933年には二等紅星奨章を受章し、1934年秋には有名な長征に参加しました。

日中戦争中は、1936年2月から5月まで中国人民抗日軍政大学の教育長を務め、1938年には副校長となります。1940年2月には八路軍野戦政治部主任に就任しました。

日中戦争終結後は、北平（現在の北京）に設置された軍事調処執行部の共産党代表団に参謀長として加わり、代表であった葉剣英による国民党およびアメリカ代表との交渉を補佐しました。国共内戦期には、党晋察冀中央局副書記、晋察冀軍区副政治委員兼政治部主任、晋察冀野戦軍政治委員、華北軍区政治部副主任兼第2兵団（後に第19兵団）政治委員などを歴任。正太戦役や石家荘戦役など、重要な軍事作戦を指揮しました。平津戦役では、楊得志らが率いる部隊と協力して国民党第35軍を包囲殲滅するなど、北平の平和的解放に大きく貢献しました。1949年4月には太原戦役にも参加しています。

中華人民共和国成立後

1949年10月の中華人民共和国建国後は、中央政府において政法部門の要職を歴任します。党中央政法委員会副主任、国務院政法弁公室主任、公安部部長、政治法律委員会副主任、公安軍司令員兼政治委員、北京市公安局長などを務めました。1955年、建国に功績のあった軍人に与えられる大将の階級を授与されます。

1959年4月28日には国務院副総理と公安部長を兼任し、国防委員会委員となります。その後、国防部副部長、中央軍事委員会秘書長を兼任。同年9月17日には公安部長の兼任を解かれ、中国人民解放軍総参謀長を兼任するとともに、国防工業弁公室主任、中央軍事委員会常務委員も務めました。

実務面では、毛沢東の最も信頼する部下の一人として、その身辺警備を統括する責任者も務めました。毛沢東からは「羅長子」という愛称で呼ばれるほど親密な関係にあり、1965年までは常に毛沢東の忠実な補佐役でした。1955年に展開された反革命分子粛清運動においては、作家の胡風らを逮捕・投獄するなど、運動を主導する立場にありました。

文化大革命

総参謀長に就任してからは、毛沢東の指示を軍に伝える役割を担い、時に国防部長であった林彪を介さずに直接、人民解放軍への指揮を行うこともありました。これは、林彪の健康状態がすぐれず、常に軍務に当たることが困難であったという事情も背景にあります。その後、国防部副部長となり、1961年11月には国防工業弁公室主任を兼任。1964年には、賀竜ら他の軍首脳とともに、全軍的な訓練と競技会（比武）を主導し、軍の練度向上に貢献しました。

さらに、彼は軍事と政治の結合を重視し、マルクス・レーニン主義の学習を奨励する一方で、毛沢東思想の教条化や形式化に反対する姿勢を示しました。この頃、国防部長に昇進した林彪は、毛沢東の著作や指示こそが軍の唯一の指導方針であるとする考え方を強力に推進しており、羅瑞卿のスタンスとは対立していました。

1965年、毛沢東は国家主席である劉少奇に権力を奪われつつあると感じていました。劉少奇は賀竜や羅瑞卿を取り込んで軍の掌握を図ろうとしたとも言われています。そのため、毛沢東は林彪と協力し、文化大革命を発動して権力奪還を企図しました。文化大革命の要因については諸説あります。

文化大革命において毛沢東に協力する見返りとして、林彪は自身にとって軍部における実力者として邪魔な存在であった羅瑞卿の排除を毛沢東に求めました。羅瑞卿は、彭徳懐が失脚した後も軍の近代化の必要性を訴え続けており、伝統的な「人民戦争」理論を重視する林彪とは軍事戦略を巡って対立していました。また、ベトナム戦争が本格化し、米中間の緊張が高まる中で、羅瑞卿は1965年5月に最新兵器による防空体制強化と対ソ関係改善を主張。これに対し、林彪は徹底的な「人民戦争」による持久戦こそ取るべき戦略であり、「裏切り者」であるソ連とは断固対決すべきだと批判しました。「林彪・羅瑞卿論争」として知られるこの戦略論争は、最終的に林彪側の主張が採用される形で決着しました。

1965年末、林彪の妻である葉群が羅瑞卿を告発し、その告発が容れられる形で羅瑞卿は自宅軟禁状態に置かれました。その後開催された政治局常務委員会拡大会議で、「政治を突出させることに反対し、軍を乗っ取り党に敵対した」として厳しい批判を受けました。1966年3月、彼は自宅で自殺を図るも失敗。この行為はさらに「党への裏切り」と見なされ、追及が強まりました。同年5月の政治局常務委員会拡大会議では、彭真、陸定一、楊尚昆らと共に「反党集団」と認定され、秦城監獄に収容されました。これらの人物はそれぞれ別の理由で問題視されていましたが、林彪は彼らが連携して活動する「反党集団」であると断定しました。この会議で初めて「プロレタリア文化大革命」という用語が公式に用いられ、羅瑞卿を含む彼ら4人は、文化大革命の波の中で最初に党中央から排除された主要な人物となりました。毛沢東の警備責任者の後任には汪東興が就任しました。後に張春橋は、1955年の反革命粛清運動の成果が限定的だったのは、羅瑞卿らがその指揮を担っていたためだと批判しています。

文革後

1976年9月に毛沢東が死去し、文化大革命が事実上終結した後、羅瑞卿の名誉は回復されました。1977年8月には中国共産党第11回全国代表大会で中央軍事委員会秘書長に選出され、政治の舞台に復帰しました。しかし、病気治療のためにドイツを訪れていた最中、1978年8月3日に72歳で亡くなりました。

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