美しい訣れの朝

「美しい訣れの朝」（うつくしいわかれのあさ）は、作曲家・中田喜直が、詩人・阪田寛夫の詩に曲をつけた女声合唱組曲です。1963年（昭和38年）にRKB毎日放送の委嘱により作曲され、同年度の文化庁芸術祭参加作品として発表、芸術祭奨励賞を受賞しました。

初演は同年11月17日、RKB毎日女声合唱団の合唱、米倉美枝の指揮、川口耕平のピアノによって行われました。

中田喜直は、昭和20年代に多くの女声合唱曲を作曲しており、それらの作品はNHKラジオ番組「花のコーラス」で放送され、好評を博しました。これらの曲は「中田喜直女声合唱曲集I」としてまとめられ、当時盛んであった「おかあさんコーラス」を中心に、女声合唱のバイブルとも評されるほど人気を博しました。

その後、中田は木下保が指導する日本女子大学の合唱団の演奏を聴き、女声合唱でもスケールの大きな曲が歌えることに気づき、より大規模な作品を手がけるようになりました。また、芸術祭のために各放送局が作曲家に合唱曲を委嘱する時代背景も重なり、中田も芸術祭参加のための組曲を作曲するようになりました。

「美しい訣れの朝」は、夫に先立って死んでいく妻のレクイエム、あるいは「女の愛と生涯」を描いた全5楽章からなる組曲です。作曲当初は演奏難易度が高く、限られた合唱団しか歌うことができませんでしたが、合唱団の技術水準の向上に伴い、現在では幅広い世代の女声合唱団に歌われるようになっています。

しかし、合唱指揮者の辻正行は、中学生や高校生が歌う現状に対し、「少し早すぎる」と批判的な見解を示しています。この曲は、大人の女性、特に「おかあさんコーラス」に適した作品であると述べています。

曲目

1. あなたはいつも：終始ヘ短調で、病床で夫の帰りを待つ女の心情が描かれています。
2. くちなし：「臭いつつ腐る」というくちなしの花に自らを重ね、老いと死に向かう女の諦めを表現しています。
3. お母さん：曲頭に「静かに（語るように）（あえぐような気で、ささやくように）」との指示があり、幼い頃の母を思い出し、子どもに戻ったように甘え、嘆く女の姿が描かれています。
4. おやすみ　ぼくチン - 生まれなかった子供への子守唄 -：生まれることのなかった子どもへの、温かい母としての愛情が歌われています。
5. 赤い風船：転調を頻繁に繰り返しながら、女がついに天へと帰っていく様子を描いています。

楽譜はカワイ出版から出版されています。

この作品は、日本の合唱作品100選にも選ばれており、中田喜直の代表作の一つとして、現在も多くの合唱団に愛されています。

参考文献
* 「日本の作曲家シリーズ 5 中田喜直」『ハーモニー』89号（全日本合唱連盟、1994年）

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