美努王

美努王（みぬおう / みのおう）について

美努王は、飛鳥時代から奈良時代にかけて活躍した皇族であり、官僚です。敏達天皇の血を引くとされ、その出自には諸説ありますが、いずれも天皇の血縁者であることは確かです。官位は従四位下・治部卿にまで至りました。

出自

美努王の出自については、『日本書紀』、『古事記』、『新撰姓氏録』、『尊卑分脈』などの史料に記載がありますが、系譜に若干の違いが見られます。

『日本書紀』、『古事記』、『新撰姓氏録』：敏達天皇から数えて三世王とされています。具体的には、敏達天皇 - 難波皇子 - 栗隈王 - 美努王という系譜です。
『尊卑分脈』：敏達天皇から数えて四世王とされています。具体的には、敏達天皇 - 難波皇子 - 大俣王 - 栗隈王 - 美努王という系譜です。

これらの違いから、美努王の出自には複数の説があることがわかります。

経歴

美努王は、その生涯において、重要な出来事に関わっています。

壬申の乱：天武天皇元年（672年）に起こった壬申の乱では、美努王は近江朝廷側の命令を拒否しました。佐伯男が筑紫に徴兵に来た際、美努王は外敵への備えを理由にこれを拒否。佐伯男は、命令に従わない場合は殺害するように命じられていましたが、美努王の息子たちが武装していたため、実行できませんでした。この出来事は、美努王の武力と政治的な立場を示唆しています。
帝紀編纂：天武天皇10年（681年）、美努王は川島皇子らと共に、帝紀および上古の記録の校定事業に従事しました。この事業は、歴史の記録を整理し、国家の正当性を確立するためのものであり、美努王が文化的な事業にも関わっていたことがわかります。
筑紫大宰：持統天皇8年（694年）、美努王は筑紫大宰に任ぜられました。筑紫大宰は、九州地方を統括する重要な役職であり、美努王は地方行政にも携わっていたことがわかります。
大宝律令：大宝元年（701年）に大宝律令が施行されると、美努王は正五位下となり、造大幣司長官に任ぜられました。その後、左京大夫、摂津大夫、治部卿を歴任し、最終的に従四位下に至っています。これらの役職は、美努王が中央政府において重要な役割を果たしていたことを示しています。
薨去：和銅元年（708年）5月30日に亡くなりました。

『万葉集』

『万葉集』巻十三には、美努王を失った愛馬が嘶いている様子を詠んだ長歌と反歌が収録されており、美努王が馬を愛していたことがうかがえます。これらの歌は、美努王の死を悼み、その人となりを偲ぶものとして、後世に伝えられています。

官歴

『六国史』に記載された美努王の官歴は以下の通りです。

持統天皇8年（694年）9月22日：筑紫大宰率
大宝元年（701年）：正五位下（大宝律令施行による）。11月8日：造大幣司長官
大宝2年（702年）正月17日：左京大夫
時期不詳：従四位下
慶雲2年（705年）8月11日：摂津大夫
和銅元年（708年）3月13日：治部卿

系譜

美努王の系譜は以下の通りです。

父：栗隈王
母：大伴長徳の娘
妻：県犬養三千代（のちに藤原不比等の妻）
男子：橘諸兄（684-757）、橘佐為（?-737）
女子：牟漏女王（?-746）

美努王は、橘諸兄や橘佐為などの著名な子をもうけており、その血筋は後世にも影響を与えています。

まとめ

美努王は、皇族でありながら、政治や文化の分野でも活躍した人物です。その出自には諸説ありますが、敏達天皇の血を引く皇族であり、官僚として中央政府で重要な役割を果たしました。また、地方行政にも携わり、壬申の乱では近江朝廷の命令を拒否するなど、強い意志を持っていたことが伺えます。万葉集には、彼の愛馬を詠んだ歌が収録されており、その人となりを偲ぶことができます。

参考資料

原島礼二「上毛野『伝承』採用の条件ー七世紀後半の上毛野氏の地位からー」『日本歴史』154号1961年4月
原島礼二「八色姓と天武政権の構造」『史学雑誌』70編8号1961年8月
胡口靖夫「美努王をめぐる二、三の問題」『国史学』92号　（1974年（昭和49年））
松崎英一「天武紀考証二題」『日本歴史」321号1975年2月
藤原茂樹「三野王に関する基礎的考察ーその識別及び馬との関りについてー」『萬葉』125号1987年2月
宇治谷孟『日本書紀 （下）』講談社学術文庫、1988年
宇治谷孟『続日本紀 （上）』講談社学術文庫、1995年
義江明子『県犬養橘三千代』（吉川弘文館、2009年（平成21年））

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