美徳の寓意

コレッジョ作「美徳の寓意」：知性と美徳の調和

コレッジョの晩年の傑作の一つである「美徳の寓意」は、ルネサンス期のパルマ派の画家コレッジョによって1531年頃に制作されたテンペラ画です。この作品は、対となる「悪徳の寓意」と共に、イザベラ・デステの書斎を飾るために制作されました。現在は、パリのルーヴル美術館に所蔵されています。

作品の解釈

絵画の中心に描かれているのは、甲冑を身に着け、折れた赤い槍を持つ知恵の女神アテナ（ローマ神話のミネルヴァ）です。彼女は兜を脱ぎ、足元には征服されたドラゴンがいます。盾にはメドゥーサの首が描かれており、これが彼女がミネルヴァであることを示しています。ミネルヴァの姿は、戦争に勝利した後の平和を象徴しており、折れた槍は勝利の証です。

画面上部には、音楽と天上の名声を象徴する3人の女性像が描かれています。ミネルヴァの背後には、彼女に月桂冠とナツメヤシの葉を授ける翼のある女性像《栄光》がいます。画面左側には、正義、慎重さ、節制、不屈の精神という四つの枢要徳を象徴する女性像が描かれており、それぞれ剣、蛇、手綱、ライオンの毛皮で表現されています。画面右側の女性像は、コンパスで地球儀を測定しており、占星術、科学、または知恵の象徴と解釈されています。これらの要素から、ミネルヴァ（またはミネルヴァに扮したイザベラ・デステ）は、知性と人間性のあらゆる力の調和を主宰していると解釈できます。

特に注目すべきは、ミネルヴァが持つ赤い槍です。この槍は、マントヴァの宮廷画家アンドレア・マンテーニャの作品にも見られるもので、聖ロンギヌスによってマントヴァにもたらされたキリストの聖血を象徴すると考えられています。ゴンザーガ家は、聖遺物である聖血の守護者としての役割を強調するため、この赤い槍を象徴として積極的に用いました。

来歴

「美徳の寓意」は、イザベラ・デステの死後、コルテ・ヴァッキアの入り口に「悪徳の寓意」と対で飾られていました。1627年頃には、マントヴァ公爵フェルディナンド・ゴンザーガが死去した際に、リシュリュー枢機卿に寄贈され、パリに移されました。

一方、ゴンザーガ家が所有していた他のコレッジョ作品は、チャールズ1世に売却されましたが、チャールズ1世の処刑後、一部はエバーハルト・ジャバッハに渡り、最終的にルイ14世によって購入されました。この経緯を経て、「美徳の寓意」も1671年にルイ14世の手に渡り、現在はルーヴル美術館の所蔵となっています。

素描と影響

この作品には、少なくとも2点の準備素描が存在し、未完の作品も2点確認されています。素描はルーヴル美術館に、未完の作品はスコットランド国立美術館とドーリア・パンフィーリ美術館に所蔵されています。これらの素描と未完作品は、コレッジョの制作過程を理解する上で貴重な資料となっています。

また、バロック期の彫刻家ジャン・ロレンツォ・ベルニーニは、この作品に触発されて「時間によって明らかにされた真実」を制作したと言われています。これは「美徳の寓意」が後世の芸術家にも大きな影響を与えた証拠です。

まとめ

「美徳の寓意」は、コレッジョの卓越した画力と象徴的な表現が融合した傑作です。知恵、美徳、そして権威が織りなす複雑な世界観は、見る者に深い感動と考察を与えます。その歴史的な背景と芸術的な価値は、今日においても高く評価されています。

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