美沢 (苫小牧市)

北海道苫小牧市の最北端に位置する美沢（みさわ）は、美沢川を境界として千歳市と接する地域です。

この地は古くは「植苗村字美々（びび）」と呼ばれていました。その名の由来は、アイヌ語の「ペペ」、あるいは「ペッペッ」にあるとされています。これらは、いずれも「水たまりが多く集まる場所」や「川が多く流れる場所」といった水辺の特徴を示す言葉であり、明治11年（1878年）頃に「美々」という漢字が当てられたと考えられています。

そして昭和18年（1943年）に行われた字名改正の際に、地名が「美沢」と改められました。この改名の背景には、この地域が丘陵地帯に深く刻まれた谷を持ち、そこに豊かな木々が茂り、一年を通して美しい景観を見せるという、自然の魅力が理由として挙げられています。

美沢の歴史は古く、近世においては、太平洋側の東蝦夷地と日本海側の西蝦夷地を結ぶ重要な交通路の一つである「ユウフツ越え」の一部を担っていました。このルートは、勇払から勇払川を舟で遡上し、ウトナイ湖、美々川、美沢川と内陸へ進み、美々からは陸路でシコツ（現在の千歳）へ向かい、再び千歳川から舟で石狩川に至るというものです。平成4年（1992年）に実施された「美々8遺跡低湿地部」の発掘調査では、この地域の「美々舟着場跡」と推定される場所から、丸木舟や櫂（かい）といった舟具が出土しており、江戸時代の探検家である松浦武四郎の記録とも関連付けられ、この地が水陸交通の結節点であったことが裏付けられています。

明治維新後、開拓が進むにつれて、美々は新たな役割を担うようになります。明治5年（1872年）に室蘭・札幌間の国道が起工され、同年のうちに恵庭まで開通すると、美々は陸上交通の要衝として注目されました。これにいち早く着目した井上利三郎は、明治6年（1873年）10月には馬宿を設け、馬を使った運送業を開始しました。

この一帯にはエゾシカが多く生息しており、猟も盛んに行われていました。この豊富な資源を利用するため、明治7年（1874年）には官認の鹿肉燻製所が設置されます。さらに明治11年（1878年）には、官設の罐詰製造所と脂肪製造所が追加され、ロシア式建築の生徒舎まで建てられるなど、鹿肉加工の一大拠点として発展が図られました。しかし、翌明治12年（1879年）春の記録的な大雪により、餌を確保できなくなったエゾシカの数は激減。原料の安定供給が不可能となったため、美々には広範囲の禁猟区が設けられ、罐詰製造所はわずか二年後の明治13年（1880年）に操業停止、明治17年（1884年）7月には廃止という短い歴史に幕を下ろしました。

明治後期になると、鉄道建設が進展します。井上利三郎をはじめとする運送業者たちは、馬による輸送が鉄道に取って代わられることを予見し、鉄道の開通に先んじて東の早来など他の地域へと移住していきました。彼らが去った後、明治34年（1901年）頃には大島岩太郎・五郎松親子などが美々に居を構え、開墾と並行して製炭業を手掛け始めます。同時期には猿子鳥次郎、長谷川幸之介、佐藤吉兵衛、石原金助らも入植しました。中でも佐藤吉兵衛は美々における水田開拓の先駆者であり、明治44年（1911年）頃には稲作を始めています。

大正時代に入ると、第一次世界大戦の影響による経済の膨張が、物資の流通を活発化させ、鉄道敷設に不可欠な枕木などの原材料需要が植苗村で高まります。これにより共有地の森林資源に手が加えられることになり、そのための労働力を供出した美々では、一時的に人口が大きく減少する事態となりました。しかし数年後には、共有地開拓に携わった人々の一部が戻ってきたことで人口は回復に向かいます。平地では水田が、段丘上では畑が開かれ、現金収入を得るために製炭も続けられ、早来などへ出荷されました。また、近隣の安平村フモンケ地区で馬産が盛んだった影響を受け、大島五郎松のように馬の生産に力を入れる者も現れるなど、この時期の美々は多様な開拓の様相を呈していました。

そして昭和18年（1943年）10月、苫小牧町内の大字が廃止され、植苗村が細分化される中で、字美々が「美沢」として独立した地名となり、現在に至ります。現在も、新千歳空港の一部や高速道路のパーキングエリア、レジャー施設などが立地し、交通と交流の拠点としての役割を一部担っています。

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