翠川秋子

翠川秋子（みどりかわ あきこ）

翠川秋子は、1889年9月（明治22年）に生まれ、1935年8月20日（昭和10年）に没した、日本初の女性アナウンサーです。

生涯

東京日本橋亀島町で、明治維新前には与力を務めた武士の家に生まれました。父親は荻野流砲術の師範でした。女子美術学校（現在の女子美術大学）を卒業後、銀行員と結婚し、養子を迎え、1男2女をもうけましたが、1922年（大正11年）に夫と死別しました。

その後、東京放送局（NHK首都圏局の前身）の総裁であった後藤新平の目に留まり、後藤の推薦で1925年（大正14年）6月に東京放送局に入局しました。当初は放送係として家庭講座を担当していましたが、採用試験の際に披露した琵琶の演奏で豊かな声量が認められ、アナウンサーを兼任することになりました。これが日本初の女性アナウンサーの誕生です。

しかし、局内での風当たりは強く、翠川は「男社会の犠牲になった」との思いを抱き、約7ヶ月後の1926年（大正15年）1月に退職しました。男性職員にアナウンスの口調について意見され口論となり、暴力を振るわれたことがきっかけで辞表を提出したとされています。

退職後は、後藤が会長を務めていた家庭電気普及会発行の雑誌「家庭の電気」の編集主任、成女高等女学校の美術教師、白木屋での広報雑誌編集などを務めましたが、いずれも長続きしませんでした。その後、友人とサン・スーシー社を設立し、雑誌「皮肉」を創刊して主幹となりました。さらに、新宿2丁目に屋台のおでん屋「みどり」を開きましたが、経営はうまくいかず閉店しました。その後は、日本観光協会の嘱託を務める傍ら、生命保険会社の外交員としても勤務していました。

1935年（昭和10年）7月25日、翠川は自宅から姿を消しました。同居していた長男と長女は、翠川が突然旅に出ることが時々あったため、当初は気にしていませんでした。しかし、日本郵船の平安丸に乗務していた次男が、翠川から「亡き父さんへの責任は果たした」、「妾（わたし）は疲れた」と綴った手紙を受け取り、不審に思い、下船後に兄弟3人で家中を探したところ、「海の底から子どもたちの幸福を永遠に祈っている」、「私の家出した日を命日としておくれ」などと記された遺書を発見しました。8月6日に警察に届け出て、捜索が開始されました。

当初は自殺のための単独での家出と考えられていましたが、8月19日、千葉県安房郡館山北条町（現在の館山市）の旅館で夫婦と称して滞在していた男女が、貸しボートで館山湾外に出たまま行方不明になったという届け出がありました。8月20日午前7時半頃、安房郡西岬村（現在の館山市）坂田海岸に女性の遺体が漂着しているのが発見され、その後の捜査で、その女性が翠川であることが判明しました。また、男性は、おでん屋の常連客であった年下の東京市・蒲田区（現在の大田区）役所の職員であることが判明し、心中であったことが明らかになりました。

翠川秋子の墓所は、東京都豊島区の染井霊園にあります。

参考文献

澤地久枝『続・昭和史のおんな』文藝春秋、1983

関連項目

日本のアナウンサー一覧
* 自殺・自決・自害した日本の著名人物一覧

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