聖セバスティアヌスの聖母

『聖セバスティアヌスの聖母』は、イタリア・ルネサンス期の画家コレッジョが1524年頃に制作した油彩画です。モデナの聖セバスティアヌス同心会からの依頼で描かれ、現在はドレスデンのアルテ・マイスター絵画館に所蔵されています。この作品は、聖母子と聖セバスティアヌス、聖ロクス、聖ジミニャーノという3人の聖人が描かれた宗教画であり、その背景には当時の社会状況や宗教観が反映されています。

制作背景

この絵画は、モデナの聖セバスティアヌス同心会によって依頼されました。同心会のメンバーであるフランチェスコ・グリッレンゾーニは、コレッジョの友人であり、この絵画の依頼に関わったと考えられています。絵画には、疫病から人々を守る聖ロクスが描かれており、これは1523年にモデナで終息したペストへの感謝の意が込められていることを示唆しています。そのため、制作年は1524年頃と推測されています。

作品の特徴

絵画は、天上の聖母子と地上の聖人たちという二つの場面に分かれています。上部では、聖母子が天使やケルビムに囲まれた雲の上に座っています。一方、下部では、左側に木に縛られた聖セバスティアヌスが恍惚とした表情で聖母子を見上げています。中央には聖ジミニャーノが鑑賞者の方を向き、聖母を指し示しています。その傍らには、聖人の守護するモデナの都市を抱えた少女が描かれています。右側には、巡礼者の姿をした聖ロクスが眠っていますが、身振りで聖母子の存在を示唆しています。コレッジョは、聖母子を聖人たちが同時に見た幻視として描いています。殉教の法悦にある聖セバスティアヌスと、神秘的な夢を見ている聖ロクスは、奇跡的な聖母子の出現を体験しており、聖ロクスの太腿にはペストが回復した痕跡が見られます。

画面全体を覆う不定形の雲は、天上的世界と地上的世界との境界線を曖昧にし、聖人たちの上下の身振りは、聖母子や天使たちとのつながりを表現しています。また、光と影の交錯、中心軸のない不安定な配置、段階的に移行する黄金の光は、聖母子の出現の瞬間や聖人たちの宗教的熱狂を効果的に演出しています。この絵画は、モデナの人々の天国への祈りの強さ、キリストの意思、そして聖母マリアの執り成しによって起こる人々の宗教的感情を表現しています。この絵画全体に満ちる並々ならぬ活気は、人々の深い信仰心を表していると言えるでしょう。

この作品は、後のパルマ派の画家たちに影響を与えたマニエリスム的な特徴が強く見られます。しかし、ラファエロの様式に基づいた均衡の取れた構図も維持しており、コレッジョの成熟した画力を示しています。

来歴

この絵画は、ヴァザーリがかつての設置場所について言及していること、クリストファロ・ベルテッリによるエングレービングやフェデリコ・ツッカリによる模写が存在することからも、早くから有名であったことが分かります。1世紀以上も礼拝堂に飾られていましたが、1657年にモデナ＝レッジョ公爵のフランチェスコ1世・デステによって購入され、自身のコレクションに加えられました。その際、ジャン・ブーランジェの複製と置き換えられています。同時に、『聖フランチェスコの聖母』や『聖フランチェスコのいるエジプトへの逃避途上の休息』も購入され、コレクションに加えられました。フランチェスコ1世・デステは、これらの作品を自身の収集室に入れ、フランチェスコ・スカンネッリに賞賛されました。その後、1746年にザクセン選帝侯アウグスト3世によって購入され、ドレスデンに運ばれました。

修復

この絵画は、1611年にはすでに状態の悪さが指摘されていました。17世紀には、モデナのマニエリスム画家エルコレ・デッラバーテによって修復され、その後ボローニャのバロック画家フラミニオ・トーレによって大幅に塗り直されました。さらに、モデナからドレスデンへの移動の際にも傷ついたとされています。ローマの修復家ピエトロ・パルマロリによる修復は、物議を醸したとされています。

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